最新記事

銃規制

銃規制運動を率いる高校生は課外授業が育てた

2018年3月15日(木)17時00分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

生存者の高校生の積極的な活動で、銃規制をめぐる運動は過去にないほど広がっている Colin Hackley-REUTERS

<生き残った学生が銃規制の議論を動かせたのは、全米で失われゆく「課外授業」の成果だった>

銃乱射事件から2週間たった2月28日。現場となったフロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校では、ようやく授業が再開された。

だが同日、共和党のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は生徒たちを激励するどころか、「傲慢とうぬぼれ」に「感染した」と非難。州議会は教師を含む学校職員に校内で銃を隠し持つ許可を与える案を検討し、共和党連邦議員らは銃規制を望む声に背を向ける。一見、アメリカは今回の事件をもってしても何一つ変わらないようだ。

だが、そうとばかりもいえない。事件を生き延びた生徒たちが、ソーシャルメディアを駆使し、銃規制に関する議論を変革しつつある。

さあ今こそ、アメリカの教育に関する議論を変革する時だ。いや、教育現場における銃の話ではない。ダグラス高校の生徒たちが身をもって示した、教育システムについての話だ。

落ち着き払い、雄弁で博識で、あり得ないほど大人びたダグラス高校の生徒たちが事件後の運動で力を発揮したのは、彼らが特殊な個性や才能を持っていたからだろうと、人々は考えている。事実、彼らの言葉が驚くほどパワフルなので、クライシスアクター(犠牲者の役を演じる役者)だの、政治家に動員されただのと、ばかばかしい陰謀論が広がったほどだ。

だが今回の件から読み取れる教訓がある。生徒たちの雄弁さは、同校で受けた「課外教育」の成果を証明するものでもあったのだ。

アメリカの公立校でここ数十年、教養科目と体育が次第に削られるなか、ダグラス高校は50年代スタイルの公教育を受けられる数少ない学校だった。比較的裕福な地域にあることも影響し、同校は予算の関係から全米で削減された課外教育の恩恵にあずかれた。

公民権運動への積極性を生む

ダグラスの生徒たちが事件後、運動の担い手として活躍したのは、同校の「即興スピーチ力を育てる討論プログラム」によるところが大きい。この地区の全中学・高校には討論と演説を学ぶ課程があり、偶然にもダグラスの生徒の一部は今年、銃規制に関する討論に向けて準備を進めていた。

運動を主導した生徒たちの大部分は、演劇課程も受けていた。また、学校新聞を運営し、放送ジャーナリズムを学ぶ若きジャーナリストたちでもあった。その1人デービッド・ホッグは、銃撃中に身を隠しながら級友たちをインタビューし、映像を公開。クリスティー・マは「生々しい感情を伝えるため、できる限りの写真を集めた」と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中