最新記事

アメリカが銃を捨てる日

【歴史】NRAが銃規制反対の強力ロビー団体に変貌するまで

2018年3月7日(水)11時58分
パトリック・J・チャールズ(米空軍第24特殊作戦航空団所属歴史学者)、ソーニャ・ウェスト(ジョージア大学法科大学院教授)

ケネディ暗殺後に会員が急増

NRAが主流派メディアとの連携を捨て去ったのは、63年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件がきっかけだ。事件後の調査報道では、議員が銃規制法案に反対票を投じるよう、NRAが裏で圧力をかけていた事実が明らかになった。これに対してNRAは報道を否定したり、問題の報道機関は銃所持反対派だと決め付けたり、アメリカの「武装解除」を狙うエリート層や共産主義者、外国政府が記事のために資金を提供したと主張した。

NRAの議会への働き掛けをめぐる報道の増加は、2つの重大な影響をNRAにもたらした。1つ目は、NRAは事実上の「反銃規制ロビー団体」だというイメージが定着したこと。2つ目は会員が激増したことだ。会員数は60年に約32万5000人だったが、67年には約80万5000人に達した。

人々がNRAに押し寄せたのは、アメリカでの銃規制を目指す陰謀の一環として、NRAに否定的な報道が行われていると考えたためだ。ニューヨーク・タイムズ紙の狩猟・釣り担当コラムニストで、NRA会員だったオスカー・ゴッドバウトは64年、メディアがNRAを標的にするのは「過剰な規制を行う法案を会員に周知する」能力をNRAから奪い、銃所持者が「気付かないうちに規制案が可決される可能性を高める」ためではないかと発言した。

一方、政治的な保守主義者の場合、国民の武器所持の権利を保障する合衆国憲法修正第2条や憲法における「州の権限」の概念そのものを、リベラル主義者が無効にしようとしているとの不安がNRA加入の動機になった。

NRAの側も不安をあおった。68年に銃砲規制法が採択された際には、「将来の米国民」はこの決断をメディアが「パニックのボタン」を押した「典型例」と見なすだろうと機関誌で主張。連邦議会が法案を可決したのは「資金豊富な(銃規制支持派の)プロパガンダマシン」のせいだと述べた。

60年代になって突然、会員数が急増したことでNRAの在り方は決定的に変化した。1世紀近い歴史上で初めて、銃規制阻止を目的に加入した会員が多くを占める状態になり、反銃規制ロビー団体としての役割を担えとの突き上げを受けるようになった。

とはいえ新たな組織像を誰もが受け入れたわけではなく、70年代半ばからは内紛にたたられた。新たな流れを決定づけたのは77年の年次総会だ。新世代の会員が旧来の幹部を退陣させることに成功し、代わって銃規制法案に強硬に反対する面々が指導部入りした。

今日のNRAが銃規制を求めるメディアを攻撃するのは、世論に従った結果というだけではない。NRAは自らが先駆者となった伝統を忠実に守り、支持者の怒りを誘導して政治的利益を手にするべく、メディアを「共通の敵」に仕立て上げ続けている。

(チャールズは著書に『アメリカでの武装──銃所持権の歴史、植民地時代の民兵から銃秘匿携帯まで』がある)

©2018 The Slate Group

【参考記事】今回は違う──銃社会アメリカが変わり始めた理由


180313cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版3月6日発売号(2018年3月13日号)は「アメリカが銃を捨てる日」特集。銃犯罪で何人犠牲者が出ても変わらなかったアメリカが、フロリダの高校銃乱射事件をきっかけに「銃依存症」と決別? なぜ変化が訪れているのか。銃社会の心臓部テキサスのルポも掲載。この記事は特集より>

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中