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安全保障

北朝鮮核危機で果たす東京の使命とは

2018年1月19日(金)16時00分
小池百合子(東京都知事)

東京をはじめアジアの主要都市の首長は持てる権限と影響力を行使して、北朝鮮の核問題の解決に尽力する義務がある Elysee Shen-The Image Bank/GETTY IMAGES

<住民の安全と健康を守ることはもちろん、地域の安定と平和の構築も自治体トップの務めだ>

東京、そして日本全国の都市や町で人々が新年を迎える準備を進めるなか、長く忘れ去られていた民間防衛施設のほこりが払われ、核攻撃対応マニュアルが引っ張り出されている。

子供たちは、米ソ冷戦真っ盛りだった子供時代に私がやらされたような避難訓練をやらされている。警察や消防、自衛隊の防災チームは1990年代以降お蔵入りしていた初動対応手順に磨きをかけ、各地の病院もシステムのストレス試験を実施中だ。核シェルターの点検・整備が進む一方で、核攻撃後のサバイバルを目指す新技術の開発も急ピッチで進んでいる。

こうした動きは日本上空を通過するミサイルを相次いで発射し、好戦的な姿勢を強める北朝鮮への対応だが、その多くは地方自治体が担っている。

日本だけでなく、アジアの多くの都市が防災体制の強化で主導的役割を果たしている。だが自治体の役割はそれだけではない。緊張を緩和し、紛争を防ぐためにも主導権を発揮できるはずであり、発揮すべきだ。

冷戦時代の歴代の東京都知事がそうだったように、私も東京が核攻撃にさらされる確率は限りなく低いと考えている。しかし都民の安全と健康を守るためには、都庁とその指揮下にある諸機関はどれほど徹底的に対策を取っても、取り過ぎることはない。核への備えにわずかでも隙があるとすれば、ただ無責任なだけではない。1945年の広島と長崎への原爆投下で亡くなった人々の尊い犠牲を無にすることにもなる。

日本は唯一の被爆国だが、核の脅威を警戒するのは日本だけでも、東京だけでもない。私が責任を持つのは東京であり、東京の防災に持てる能力・資源を集中させているが、お隣の韓国の首都、東京の偉大な姉妹都市ソウルの命運も気掛かりだ。

制裁の抜け穴を許すな

私は韓国の人々をよく知っている。非妥協的でストイックな国民性から、彼らが十分な備えをすることは疑い得ない。だが、ソウルは北朝鮮の衝動的で無慈悲な指導者、金正恩(キム・ジョンウン)の気まぐれ一つで壊滅的被害を受けかねない位置にある。アジアの自治体の首長はみな、それを懸念しているはずだ。

どんな都市であろうと、地域の状況と無関係に安全を享受することは不可能だ。だからこそアジアの大都市のトップは自らの足元だけでなく、地域全体から脅威を取り除くため全力を尽くす責務がある。

中央政府も私たちの提言に耳を貸すだろう。都市は国家経済の活力の源だ。過去40年のアジアの急速な経済成長は、都市の繁栄なしには達成できなかった。都市は現代アジアの活気に満ちた文化の中心地でもある。

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