最新記事

中国社会

中国当局、貧困撲滅政策に注力 その影で取り残される都市移住者たち

2017年10月19日(木)11時00分

10月15日、中国の習近平国家主席は、2020年までに極度の貧困を解消するというキャンペーンを実施しているが、都市移住者たちは取り残されている。写真は、北京に移り住み、スクラップ回収で生計を立てている59歳のWang Qinさんと10歳の孫娘。自宅で1日撮影(2017年 ロイター/Thomas Peter)

中国の北京郊外にある廃墟と化した住宅地区で、59歳のWang Qinさんはスクラップを回収している。1日15時間働いているが、自身の稼ぎだけで孫娘の教育費を支払うのにも苦労している。

違法に建てた小さな小屋に孫娘と精神病を患っている夫と3人で暮らすWangさんだが、その家も地元当局によって取り壊されてしまうかもしれないと心配している。

Wangさんがスクラップを売って得る毎月の稼ぎ1500元(約2万5500円)で一家は生計を立てており、中央政府からの援助は全く受けていない。

2014年から首都北京で暮らしているが、一家は他省からの移住者であるため、住民として認められていない。住民登録されていないため、Wangさんは学校や医療といった費用を多く負担しなくてはならない。住宅費などのコストも地方よりはるかに高く、都市部に暮らす移住者に耐えがたい苦痛を与えている。

「毎月生きていかねばならないが、私は孫の学費や日々の食費を支払わなければならない」と、過酷な貧困を逃れようとして、中部河南省の村から北京に移住したWangさんは話す。「もう耐えられない。体中が痛い。もう働いて稼ぐことなどできない」

Wangさんの苦境は、中国の地方だけでなく、地方から大勢が移住してくる大都市に暮らす数多くの貧しい移住者にとって珍しいことではない。このことは、2020年までに極度の貧困を解消するという政府が掲げたキャンペーンの難しさを浮き彫りにしている。

習近平国家主席は2015年、7000万人の貧困者を2020年までにゼロにすると約束。同キャンペーンは習氏が掲げる主要政策の1つとなっている。

中国共産党が18日から5年に1度の党大会を開催するのを控え、貧困撲滅キャンペーンは加速している。

「政府は貧困緩和にかつてないほど取り組んでいる」と、国務院の下で貧困問題に取り組む部門責任者であるLiu Yongfu氏は10日、北京で行われた記者会見でこう語った。「習近平国家主席が自ら指揮を執っており、全ての貧困集中地域を訪問している」

「社会のあらゆる層が積極的に参加しており、貧困との闘いは大きな成果を得ていると言える」とLiu氏は付け加えた。

スクラップ回収で生計を立てているWangさんのような人たちについてロイターが質問したところ、Liu氏は、移住者は出身地で給付金を受けることが可能であり、都市居住者は都市部の社会保障制度でカバーされていると答えた。

中国財政省によると、政府は今年、貧困緩和策に昨年比30%増の860億元を充てている。2013─17年の中央・地方政府による対策費は計4612億元に上り、他のさまざまな財政支出も効果があった、とLiu氏は語った。

資金はインフラ整備のほか、教育や医療、地方農村部への補助金に充てられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドはロシア産原油購入やめるべき、米高官がFTに

ワールド

健康懸念の香港「リンゴ日報」創業者、最終弁論に向け

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏ら野党2候補決選へ 

ワールド

ウクライナ東部で幼児含む3人死亡、ロシアがミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中