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監視社会

インド13億人を監視するカード

2017年10月4日(水)10時30分
サンディ・オン

ニレカニによれば、アドハーの導入により政府の出費が既に70億ドル近く節約できた。その上、身分証明書を手にしたおかげで経済活動に参加できるようになった人が何百万人もいるという。多くの人が新たに銀行口座を開設したり、融資を受けたり、送金をしたり、携帯電話を利用したり、モバイル決済を行えるようになった。

金融機関を利用している女性の割合は27%増加し、アドハーを利用した銀行口座の開設件数は2億7000万口座を上回っている。携帯電話の利用率はそれ以前に比べて倍増し、人口の79%に達した。

「恩恵を感じている」と、西部の都市プネの家事サービス労働者アニタ・ペレイラは言う。「2人の子供と私は、身分証明書もパスポートもなく、配給カードしか持っていなかった」

インドでは毎年、何百万人もの人が国内移住している(昨年の国勢調査によれば、インド人の3人に1人が故郷の町以外に居住)。たいていは、結婚や職探しのためにコルカタ(カルカッタ)、ムンバイ、デリーなどの大都市に移り住む。そうした人たちにとって、国内のどこでも通用する身分証明書の恩恵は非常に大きい。移住先で福祉給付を受け損なうこともなくなる。

救急車に乗れない場合も

それに、アドハーにはインド国民以外も登録できる。15年の時点で、近隣のバングラデシュとパキスタンの出身者を中心に、520万人の外国人が登録している。国民だけでなく、外国人労働者にも身分証明と法的な地位の認定を行うことには大きな意義がある。

問題は、アドハーがこのように障壁を壊す一方で、新たな障壁を生み出してもいることだ。アドハーの番号を持っていないと、子供たちは学校で給食を食べられず、母親は子供手当を受け取れない。農家は収穫保険金を受給できないし、障害者は割引価格で電車に乗れない。

しかも、福祉以外の分野でもアドハーが欠かせなくなってきた。インドの有力紙ヒンドゥスタン・タイムズの4月の記事によると、アドハーが必須とされている61種類のサービスのうち、福祉関連は10種類にすぎない。今では、納税、主要な銀行での口座開設、携帯電話の契約などにも、アドハーの身分証明カードが要求される。

6月には、北部のウッタルプラデシュ州が救急車利用者にアドハーの身分証明カード提示を義務付けることを決めた。カードを見せないと、救急車に乗せてもらえなくなったのだ。

「アドハーに登録することは義務ではないが」と、ニレカニは言う。「カードが必須とされるサービスが増えるにつれて、実質的にカードなしでは済まなくなってきている」

しかし、インドの最高裁判所は15年、アドハーへの登録は「国民の義務ではない」という判断を示している。今でも、アドハーによりプライバシーが侵害されていると裁判所に訴える国民は後を絶たない。

また、アドハーが国民生活のさまざまな場面で使われるようになる背後に、もっと邪悪なもの――国家による監視が潜んでいると考える人もいる。

バンガロールに本拠を置くシンクタンク「インターネット社会センター」のスニル・エーブラハム専務理事はこう語る。「政府は当初、アドハーは貧困層のためのものであるかのように喧伝した。それからなし崩しに対象が広がり、中流階級の人々や納税者もカードを取得しなければならなくなった。(政府は)行政の改善を掲げつつ、他方では監視を強めている」

エーブラハムはセキュリティーの問題も懸念している。「生体情報は変更が利かない。一度漏洩したら安全を取り戻すことはできない」

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