最新記事

ビジネス

低迷スーパー「ホールフーズ」を買ったアマゾンの皮算用

2017年9月12日(火)17時30分
ウィンストン・ロス

売場面積当たりの売上高で見ると、ホールフーズは現在も世界で最も利益率が高い食品販売企業だ。成功例に分類される店舗はきれいで明るく、店内を歩くだけで楽しい。ほとんどのライバル企業がまねできない長所だ。そうした点を再度打ち出すことにアマゾンのジェフ・ベゾスCEOが力を入れれば、競合に悩む必要はなくなるのではないか。

創業以来、ホールフーズは大卒者が多く暮らす地区に出店するという、シンプルにして賢い方針をおおむね徹底してきた。市場調査が証明するように、食料品店は低所得層が多く住む地域に出店するより、競合店があっても富裕層エリアに店を構えるほうが売り上げがいい。ホールフーズの全店舗のおよそ25%は同社の別店舗の約8キロ圏内に位置し、47%は競合するクローガーの店舗の約5キロ圏内にある。

ところがホールフーズは近年、成長を要求される上場企業としての必要性に迫られ、あまりに急速に店舗網を拡大させてきた。そのせいで時に立地選びに失敗し、地元の好みに合わない店作りをしている。ニューオーリンズのブロード・ストリートという意外な場所で成功を収めたのは、ここでは出店前に綿密なリサーチをしたからだ。

「ジョンはずっと株式上場を後悔していたと思う」。昨年までホールフーズの米太平洋岸北西部地域社長を務めたジョー・ロゴフは、CEOのマッキーについてそう語る。「私は後悔した。ホールフーズとウォール街の両者が、会社は永遠に成長を続けるという夢物語を描いた。だから上場することにしてしまったのだろう」

【参考記事】アマゾンは独禁法違反? 「世界一」ベゾスにいよいよ迫る法の壁

不振店の閉鎖に踏み切る?

もう1つの問題はスペースだ。ホールフーズの店舗の大半は売場面積が約4500平方メートルに及ぶ。ほとんどの場合、不動産はリース物件だから、新規出店には巨額のコストがかかる。

その回収には安定した来客数の確保が不可欠だ。だが競合が加速するなか、ホールフーズの来客数は1年に3%、人数にして1400万人ずつ減少。既存店売上高は昨年、2000年代後半のグレート・リセッション(大不況)以来最悪の2.6%減を記録した。

それでも業界全体としてみれば、ホールフーズの業績は上々だ。利益率は2.8%で、業界平均の1.7%を大幅に上回る。

いまホールフーズがやるべきことは、業績不振店を閉めること。その多くは、株主の圧力を受けて急いで作った店だ。「ホールフーズには、生産性の極めて高い店が数百ある」と、不動産コンサルティング会社マクミランドゥーリトルのニール・スターンは言う。「業績不振店は100店程度だろう。数合わせのために開いた店だ」

不採算店を閉じれば、ブランドの再強化に力を入れられたかもしれない。ただ、それをうまくやるには、長期的なビジョンと、目先の利益をある程度犠牲にする覚悟が必要だ。ホールフーズの株主は、それを容認しなかった。マッキーは、独自のスタイルを貫くスーパーをウォール街に売り込もうとして、自らの手を縛ってしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中