最新記事

ロシア

北極開発でロシアは誰よりも先へ

2017年9月1日(金)17時00分
ボブ・ライス(ジャーナリスト)

アメリカでは目下、利益は二の次だ。北極圏での最大の懸念は別にある。昨年12月、バラク・オバマ米大統領(当時)は海洋資源保護のため、北極圏の米海域の大半で新たに石油・天然ガスを掘削することを禁止した。石油流出で、イヌイットが食料にしている海洋生物が汚染される恐れがあるからだ。

現大統領のドナルド・トランプはオバマの決定を覆すかもしれない。アラスカ州選出の議員も石油開発の拡大を求めるロビー活動を行っている。

しかしトランプの決断に関係なく、交易ルートと天然資源をめぐる米ロの競争は激化するだろう。予兆はある。15年5月、ロシアは軍用機250機、兵士1万2000人による大規模な軍事演習を北極圏で行った。NATOによる同様の演習に対抗したものだ。対してNATOの旗手たるアメリカは今年2月から、ノルウェーに300人の海兵隊員を常駐させている。

【参考記事】ベラルーシとの合同演習は、ロシア軍駐留の「隠れ蓑」?

北極海で軍備増強を計画

さらにロシアは慣例を破り、軍事演習に関する事前通告を一方的にやめた。おかげで北極海沿岸のNATO加盟国は心中穏やかでない。何しろデンマークもUNCLOSに基づいて北極海底の主権を主張しているし、やはりNATO加盟国のカナダも同様な主張の申請を準備している。

いずれの国にも、北極の海底は自国の大陸棚の延長だと証明できる可能性がある。そしてUNCLOSの下では、領有権の主張が重複する場合は当事国間の協議で境界線を画定する決まりだ。

だからこそロシア軍は、北極海を未来の戦場と位置付けているのだろう。「ロシアの政治指導者も軍部も、世界的なエネルギー資源の枯渇による紛争発生の可能性ありと論じ、西側がロシアの資源を奪いに来る事態を想定してきた」と、ノルウェー防衛大学のカタルジーナ・ジスク准教授は言う。

だが衝突必至という見方ばかりではない。欧米の外交関係者は折に触れて、ロシアが沿岸国のアメリカやカナダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドと良好な関係を保っている、北極海では船舶の航行と捜索救助活動で協力していると語ってきた。現にノルウェーとロシアは10年に、バレンツ海の海域画定問題を平和的に解決してみせた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中