最新記事

テクノロジー

魔法のグローブが手話を「翻訳」する

2017年8月9日(水)11時30分
ティム・マーシン

手話のアルファベットをテキストに変換する Kimberrywood-Digittalvision Vectors/GETTY IMAGES

<ジェスチャーの解読はお手の物。低コストで高機能なスマートグローブがゲームや医療分野にVR革命をもたらす>

まるで魔法を見ているようだ。グローブをはめた手がアメリカ手話の指文字でアルファベットをつづると、それがテキストに翻訳されていく。「U−C−S−D」――カリフォルニア大学サンディエゴ校。同校の研究者たちこそ、このグローブの生みの親だ。

彼らは市販の柔軟性のある電子部品を使い、100ドル未満でグローブを製作した。アルファベット26文字の指文字を判別してテキスト化し、スマートフォンやコンピューターにワイヤレス送信できる。

カギは、革製のグローブ(野球の打者がはめるものにそっくりだ)の指の背側に搭載された9本のセンサー。素材を変えて何カ月も実験し、膨大な時間を費やして指文字をつづった末に、研究チームは理想の素材を突き止めた。ゴムとカーボンナノ粒子を混ぜたものだ。

magt170809-glove02.jpg

グローブには指の動きを感知するセンサーが9個装着されている Timothy O'connor/UC San Diego Jacobs School of Engineering/GETTY IMAGES

センサーは非常に薄く伸縮性があるので、グローブをはめても違和感がないという。指の屈伸をセンサーが探知して、電気抵抗を変化させ(伸ばすと「1」、曲げると「0」)、各アルファベットに対応する9桁のコードを生成する。コードは手の甲の部分に搭載されたマイクロプロセッサーによって文字に変換され、ブルートゥース接続でアプリやコンピューターに送信される。

難題は動きを含む文字をどうやって読み取るか。例えば、iは握りこぶしを作る要領で折り曲げた指の上に親指をかぶせ、小指を立てる。一方、その状態から手首を下に向けて右に回せばjになる。

こうした手の動きを判別するため、研究チームは加速度センサーを追加した。iPhoneに搭載されていて端末の傾きを検知するセンサーだ。

【参考記事】安全な治療室の中、VRで恐怖と向き合う最新の不安障害治療

研究チームによれば、ジェスチャー認識はこのグローブが持つ可能性の1つにすぎない。「究極の目標はバーチャルリアリティー(VR)に使えるスマートグローブだ」と、研究チームは声明で述べている。「ジョイスティックなど既存のコントローラーよりはるかに直感的に使える。ゲームや娯楽にも有用だが、それ以上に医療のバーチャルトレーニングなどにもってこいだ。手の使い方を実際にシミュレーションできればプラスになる」

手の動きを正確に追えればVRでモノを操作しやすくなる。ロボットハンドやバーチャルハンドを操作し、感触を手にフィードバックする新バージョンも開発中だという。まさに、かゆいところに手が届く夢の技術だ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年8月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中