最新記事

テクノロジー

音速の壁を静かに破る NASAが手掛ける未来の飛行機

2017年8月15日(火)10時25分
ライアン・ボート

NASAとロッキード・マーティンが開発中の次世代超音速機QueSST。基本設計では音速を超える際のソニックブームと呼ばれる轟音を最小限に抑えることに成功した NASA/LOCKHEED MARTIN

<NASAが開発中のQueSSTは、ソニックブームによる騒音を抑えて超音速旅客機による空の旅へと道を開く>

音が空気中を伝わる速度は時速1225キロ。航空機がこのスピードを超えると発生するのが、ソニックブームと呼ばれる轟音だ。超音速旅客機の先駆けだったコンコルドを引退に追い込んだ要因の1つも、このソニックブームによる騒音のひどさだった。

昨年2月、NASAはロッキード・マーティンと組んでソニックブーム問題の解消に向けたプロジェクトを開始した。目指すは静かな次世代型の超音速機を開発し、マッハの空の旅に再び道を開くことだ。

そして開発チームは6月、低騒音の超音速機QueSSTの基本設計において、音速の壁を越えるときの騒音をかすかな「ごつん」という音に抑えることが可能になったと発表した。

【参考記事】コンコルドを超える超音速機は本当に実現する?

「この手のプロジェクトを管理するということは、一つ一つ段階を踏んで前進することにほかならない」と、基本設計責任者であるNASAのデービッド・リッチワインは言う。「ここまで来られたのは、ロッキード・マーティンとの強固なパートナーシップのおかげだ。実験機の製造にまた一歩近づいた」

実験機が製造されれば、アメリカ上空を実際に飛ばして環境などへの影響を確認できるようになる。このデータは当局にとって、超音速旅客機が実用化された場合に必要となる規制や施策についての検討材料となるはずだ。もっとも、試験飛行が行われるのは2020年頃になるとみられている。

今年2月、オハイオ州クリーブランドにあるNASAのグレン研究センターで、QueSSTの100分の9サイズの模型を使った風洞実験が行われた。さまざまな速度(時速240〜1450キロ)でさまざまな角度から機体にかかる揚力や抗力、横力が調べられた。実験は一通り成功を収め、開発チームは超音速機の静音化という目標は達成可能だと結論付けた。

「NASAは過去何十年にもわたり、ソニックブームから轟音を取り去る技術を目指して研究を続けてきた」と語るのは、NASAの商用超音速技術プロジェクトの責任者、ピーター・コーエンだ。「超音速飛行でも小さな音しか出ないように、衝撃波の圧力が緩やかに上昇するような航空機を設計するというのがその考え方だ」

次世代の超音速旅客機をめぐっては、世界各国が開発にしのぎを削る。アメリカがトップの座を維持するカギを握るのはQueSSTだと、コーエンは信じているようだ。その開発は静かに、超高速で進んでいる。

【参考記事】ロシアの極超音速ミサイル「ジルコン」で欧米のミサイル防衛が骨抜きに?

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年7月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

7日に米国内農家支援措置発表へ、中国による大豆購入

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中