最新記事

英王室

母ダイアナの死と心の傷を乗り越えて ヘンリー王子独占インタビュー(後編)

2017年7月26日(水)17時30分
アンジェラ・レビン(ジャーナリスト)

フロリダ州で開催されたインビクタス・ゲームの開会式で挨拶するヘンリー(2016年) Chris Jackson/GETTY IMAGES FOR INVICTUS

<ダイアナ元妃の死後、長らく精神的なダメージに苦しんだヘンリー王子は、今メンタルヘルスの解決を支援する活動に取り組んでいる。本誌単独インタビューの後編>*この記事はニューズウィーク日本版2017年7月4日号に掲載したものです。

ヘンリー王子インタビューの前編はこちら

そして最後の役割は、これまでの王族が考えもしなかったメンタルヘルスの問題に取り組むことだ。この活動は現在、ヘンリーが兄夫妻も巻き込んで、イギリス政府と協力して進めている。「政府には資金があり、私たちには発信力がある」と思うからだ。

この活動は、たぶん王子自身の問題の解決にも役立つ。彼は何度か「持って生まれた性格も変えることができる」と断言したが、それはある程度まで自分のことを言っているようだ。

ヘンリーは09年に、兄と共にロイヤル財団を立ち上げた(後に兄の妻キャサリン妃も加わる)。そのプロジェクトの1つ「フルエフェクト」は、ギャングに引き込まれかねない貧しい子供たちをスポーツを通じて、前向きに導くことが目標。筆者は王子と一緒に、イングランド中部のノッティンガムにあるフルエフェクトの現場を訪れた。

最初に立ち寄ったのは市内のナショナル・アイスセンターの屋外。ヘンリーの「普通」の側面には全く興味のない9歳の少年少女約30人が集まっていた。彼らが求めていたのは壮大なショーと、王子らしいオーラだった。

普段着のヘンリーはジョークを連発し、子供たちを笑わせ、くつろがせた。ヘンリーがラグビーボールを男子に投げ付け、サッカーボールをあちこちに蹴ったので子供たちは目を丸くした。

約20分後、王子はロイヤル財団のスポーツコーチ養成プログラムに参加する16~24歳のグループと話をした。その若者たちの大半は機能不全の家庭に育ち、学校にもなじめず、ほとんど何の支援も受けていなかった。

【参考記事】エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあの2人

人々を魅了する「共感力」

次に立ち寄ったのは、貧困地区にあるラッセル・ユースセンター。「ここは学校や青少年施設、スポーツ施設から締め出された子供たちの避難所だ」と、運営者のトレバー・ローズは言う。

ヘンリーの到着前、10代の若者たちはほとんどが王子の訪問に無関心を装っていたが、ローズは心配していなかった。「危険にさらされている若者は人を簡単に信用しない。でもヘンリーに会えばすぐに、彼が自分たちと同類であることが分かる」

実際、そのとおりだった。ヘンリーは多くの若者と握手し、少年の背中をたたき、少女を抱き締めて冗談を言った。最初はしらけていた若者たちも、すぐに王子を取り囲んで一緒に写真を撮ろうとせがみ始めた。

「王子が自分たちを見守っていると思うことで、子供たちは勇気づけられる」とローズは言う。「ヘンリーはいわゆる王子様とは違う。ただ握手をして、挨拶して終わりじゃない。彼は子供たちの人生の一部となった。彼が熱心なのも、こうした活動を通じて人生の意味が見えてくるからだろう」

ヘンリーは名門中等学校のイートン・カレッジを卒業後、10年間軍務に就き、アフガニスタンで戦闘任務に従事した。戦闘部隊の一員であることを誇りにしていたから、反政府勢力タリバンの標的になるとして戦線離脱を命じられたときはひどく落ち込んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中