最新記事

英王室

母ダイアナの死と心の傷を乗り越えて ヘンリー王子独占インタビュー(後編)

2017年7月26日(水)17時30分
アンジェラ・レビン(ジャーナリスト)

henryinter04.jpg

アフガニスタンでは危険な任務に就いた John Stillwell-REUTERS

軍隊での経験で彼は明らかに変わった。人間として成長し、自分の「使命」を獲得した。それは負傷した軍人への支援だ。14年に彼が始めた傷病兵による国際スポーツイベント「インビクタス・ゲーム」は大成功を収め、今では毎年恒例の行事になっている。

ヘンリーは兄夫妻と共に心の病気にまつわる偏見を取り払うための慈善事業ヘッズ・トゥゲザーも立ち上げており、その一環としてロンドン救急車サービスセンターを訪問。トラウマと鬱病について話した。

彼はここでも自らのアフガニスタンの戦場での体験に触れながら、救急車両の運転係や救急救命士らに共感の意を示し、こう語り掛けた。「あなた方が日々、対処しなければならない状況はものすごい。攻撃や虐待、あらゆることに遭遇する可能性がある。そういう状況で目を背け、知らぬ顔をするようでは人間失格。でも、皆さんは本当に頑張っている」

会場にいた救急救命士のダン・ファーンワースは子供の虐待死など、特に耐え難い事件を扱った後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいた。ファーンワースは自分の落ち込んだ「深い暗闇」について話し、でも心的障害を認めれば仕事を続けられなくなるという不安を打ち明けた。

ヘンリーはうなずき、王子というよりは心理療法士のように語り掛けた。「人に打ち明けることは本当に重要だ。何週間も、何年も心に不安を抱えていると、それが本当の問題になる。本音を打ち明けて、前に進むことこそ強さだ。クビになると困るから話せないという気持ちは分かる。でも、心の問題を放置しておくほうがずっと危険だ」

【参考記事】ダイアナ元妃は、結婚前から嫉妬に苦しんでいた

こうした「共感力」が最もよく現れるのは、ヘンリーが軍人仲間のような人々と触れ合うときだ。慈善団体ヘルプ・フォー・ヒーローズの退役軍人医療センター訪問に同行したのは、よく晴れた寒い日だった。たき火の傍らで数人の男がおしゃべりしながら、心理療法を兼ねた木工作業に励んでいた。

彼らは全員、英軍の傷痍軍人だ。肉体的な傷はほぼ癒えたが、鬱やストレスやアルコール依存などの精神的な問題を抱え、心理療法や生活支援を受けるためにセンターに通っている。

ヘンリーは彼らの気持ちに寄り添いながら、ジョークを交わした。ヘンリーは言う。軍人仲間との友情や「ブラックユーモア」が懐かしいと。

彼はアフガニスタンで09年に重傷を負った元狙撃兵のマイク・デイに、いきなり核心を突く質問をした。「負傷の前後で、どう変わった?」

デイは少し間を置いて、おもむろに答えた。「自分じゃなくなった」

動揺してもおかしくない瞬間だ。しかしヘンリーはひるまず、こう励ました。「頑張るんだ、自分を生きなくちゃ。ただ存在するだけじゃなくて」

デイはうなずいて続けた。「月に1度はここで4日を過ごしている。その間は調子がいいんだ」

ヘンリーはもっと対話を続けたい様子だったが、あいにく次の予定が迫っていた。去り際に、王子は声を掛けた。「頑張れよ、みんな」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ

ビジネス

日経平均は反発、円安を好感 半導体株高も支え

ビジネス

村田製作所、マイクロ一次電池事業をマクセルに80億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中