最新記事

法からのぞく日本社会

「水道民営化」法で、日本の水が危ない!?

2017年7月6日(木)10時45分
長嶺超輝(ライター)

ヴェオリア(フランス)、スエズ(フランス)、テムズウォーター(イギリス)が、世界の「3大メジャー」であり、これらは「ウォーターバロン(水男爵)」という別称でも呼ばれる。3社合計の世界での売り上げは約4兆円を誇る(経済産業省調べ、2008年当時)。

今後、水道法改正となれば、これまでと何が違うかといえば、水道料金の設定権、利益を収受する運営権まで、包括的に民間企業へ委託できるようになる。


◆水道法 第1条(この法律の目的)
 この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道の基盤を強化することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。

以上は改正水道法案の条文だが、このうち「水道の基盤を強化することによつて、」の部分は、従来「水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによつて、」と書かれていた。

それまでは、公的な管理運営をイメージさせる「計画的な整備」や「水道事業の保護育成」を水道法の目的としていたわけだが、それらを放棄し、より抽象的な「基盤を強化」という表現に入れ替えたのである。厚生労働省が適宜監督しつつも、民間企業の経営判断に任せる「水道民営化」の方針を象徴する条文改定といえる。

法案では、水道施設は自治体の所有としながら、その運営をする権限は民間に包括的に委託するコンセッション方式(官民連携方式)を採用することが定められている。水道事業の心臓部である浄水場の維持管理から、水質検査、水道代の徴収までも民間企業が一手に引き受ける。そうして経済合理性に基づいて運営することで、限られた予算を効率的に活用できるのではないかと期待されている。

しかし、運営権まで民間企業、殊に外資の水メジャーへ譲りわたすことは、一定以上のリスクを払う必要があるものと覚悟しなければならない。前述の通り、水道水は住人の生命維持に直結し、ペットボトル水と違って選択の余地がほぼ皆無なので、経済合理性を優先させた経営では間違いを起こしやすいからである。

世界180の自治体が水道事業を「再公営化」

米ジョージア州アトランタ市では、スエズ社の子会社によって水道事業が運営されていた。しかし、配水管が損傷したり、泥水が地上に噴出したりして、上水道の配水が阻害されてしまい、しかも復旧対応が大幅に遅れたことがある。

その水道会社は、事業引き継ぎの際に自治体からの情報提供が十分でなかったと弁明したが、民営化によるコストカットが行きすぎて、水道管を復旧できる技術者が不足していたおそれもあった。その反省から、2003年以降、アトランタ市では水道事業が「再公営化」されている(週刊エコノミスト2015年3月3日号「問題多いコンセッション方式――大阪市が進める水道民営化 海外で相次ぐ失敗例に学べ」椿本祐弘)。

【参考記事】中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 10
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中