最新記事

アメリカ社会

アメリカで「最も憎まれる男」の所業とは?

2017年6月28日(水)17時42分
トム・ポーター

嫌われ者シュクレリは何をしたのか Lucas Jackson-REUTERS

<この男だけはどうしても公正に裁けないと言って、陪審員選びから落ちる候補が続出。その理由は>

アメリカで「最も憎まれる男」マーチン・シュクレリの裁判の陪審員選びが、難航している。

今週月曜、連邦犯罪の証券詐欺罪で2015年に逮捕されたシュクレリの裁判の陪審員選びで、多くの候補者が、シュクレリが有罪か無罪かとても公正な判断はできないと言い、悪態をつく。

シュクレリはチューリング製薬のCEOだった2015年に、HIV(エイズウィルス)患者にとって生死を分ける治療薬「Daraprim(ダラプリム)」の価格を55倍に引き上げて大儲け。患者の負担が大幅に増すことから、世論に激しく非難された男だ。

ニューヨーク・ブルックリンの裁判所で行われた陪審員選定では、選考初日にして100人以上の候補者が落とされた。

選考のなかで、候補者の1人はシュクレリを「強欲そのもの」と呼んだ。「アメリカで最も憎まれる男」というあだ名もある。シュクレリの首を締めるジェスチャーをする男性もいたと、AP通信が報じている。

米ニュースサイト、バズフィードによれば、裁判官から公正な判断ができるか尋ねられたある候補者は「悪いが、シュクレリは最低だ」と言ったという。

【参考記事】ロシアでHIV感染拡大、原因はコンドーム

ここまで言われるワケ

裁判はダラプリムの問題とは直接関係はなく、シュクレリが以前幹部を務めたヘッジファンドでの証券詐欺容疑の公判だ。シュクレリに騙された投資家の被害総額は1100万ドルに達するとされており、有罪判決を受けた場合、最長で20年の懲役に科せられる。

しかし、ここまで社会に嫌われるのはダラプリムの薬価吊り上げのせい。感染症治療薬としてとうに特許が切れていたダラプリムのライセンスを買い取るや、その価格を1錠あたり13.5ドルからいきなり750ドルに値上げした。薬代の値上がりで治療が続けられない患者が出るなど、猛烈な批判を集めた。

私生活でも何かと問題が多い。アメリカのヒップホップ歌手ウータン・クランの世界に1つしかないアルバム『Once Upon a Time in Shaolin 』を200万ドルで購入したかと思えば今年1月には、女性ジャーナリストのローレン・デュカへの嫌がらせを理由にツイッタ―のアカウントを削除された。

陪審員の選考は火曜から2日目に突入する。「最も憎まれた男」を公正に裁くことができる陪審員は果たして現れるのだろうか。

【参考記事】恐怖の「それ」がえぐり出す人生の真実
【参考記事】TPPが医療費高騰を招く?

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独財務相、鉄鋼産業保護のため「欧州製品の優先採用」

ワールド

米上院、トランプ大統領のベネズエラ攻撃を阻止する決

ワールド

米軍、ダマスカスの空軍基地に駐留拠点設置へ=関係筋

ワールド

東部要衝ポクロフスクで前進とロシア、ウクライナは包
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中