最新記事

経済危機

貧者の「糞爆弾」にベネズエラ政府が抗議「生物化学兵器だ」

2017年5月15日(月)17時00分
ジェイソン・ルミエール

「政府がガスを使うなら俺たちは……」(5月10日、カラカスの反政府デモに「糞爆弾」を持参した市民) Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

<経済危機下で困窮し、反政府デモをすれば弾圧される。そこでベネズエラの貧者が考案した究極の新兵器とは>

経済危機下のベネズエラでは、食料や薬品が不足し、幼児死亡率は上昇するなど、苦しい生活が続いている。社会主義政権を率いるニコラス・マドゥロ大統領は危機の深まりとともに独裁色を強め、平和的な抗議デモにも銃を向けた。

【参考記事】ベネズエラへ旅立つ前に知っておくべき10のリスク

追いつめられた人々が持ち出したのは、究極のショック兵器、モトロフカクテルならぬ「大便カクテル」だ。中身はその名の通り。プラスチックボトルに人間の便と水を入れた新兵器である。たちまち「糞爆弾」と命名された。

ベネズエラ政府も黙っていなかった。この爆弾は「生物化学兵器」に相当し、厳しく処分する、と言うのだ。

「これは生物兵器だ」と、政府の法務監査官マリーリズ・バルデスは先週水曜、国営テレビに語った。「生物化学兵器の使用は犯罪だ。厳しい罰則が伴う」

「糞爆弾」が初めて使われたのは5月最初の週末。首都カラカスの郊外にあるロステケスの町で、デモ隊が国家警備隊の兵士たちに投げつけたのだ。報道によれば、兵士たちは戦慄し、嘔吐して、治安どころではなくなった。

糞でも投げるしかない

人々はオンラインであっと言う前に爆弾の「レシピ」をシェアしたので、新兵器は瞬く間に広がったと、スペイン語新聞エル・パイスは伝える。「政府が催涙ガスを使うなら、俺たちは排泄物を使う」というスローガンも生まれ、週明けまでには全国数都市とカラカスにも登場した。

ベネズエラでは、最近の暴動で少なくとも37人が死に、700人以上が負傷した。だがマドゥロは、デモ隊は右派の野党に金で雇われた傭兵で、死因は自家製銃の暴発だとした。

【参考記事】経済危機のベネズエラで大規模な反政府デモ、17歳死亡

デモが本格化したのは今年3月、政府寄りの最高裁が、野党が支配する議会を機能停止にした後に始まった。最高裁はすぐに判断を撤回したが、デモは止まなかった。

マドゥロへの退陣圧力は、2014年の原油価格急落でベネズエラ経済が崩壊して以来、強まる一方。先週発表された今年1~4月のインフレ率は93.8%に達した。また去年の幼児死亡率は30%に達し、妊産婦死亡率は65%増加した。

【参考記事】「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中