最新記事

南米

経済危機のベネズエラで大規模な反政府デモ、17歳死亡

2017年4月20日(木)18時00分
エミリー・タムキン

マドゥロ退陣を求めるデモ隊と機動隊が衝突(4月19日、カラカス) Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

<困窮にあえぐ国民の声に野党つぶしで応じるマドゥロ大統領。大規模な抗議デモも催涙弾と銃弾で圧殺する構え>

ベネズエラの首都カラカスで19日、大規模な反政府デモが起き、治安部隊の弾圧で混乱が広がるなか、政府系民兵がデモ隊と衝突、学生1人が死亡した。
 
「すべての抗議の母」と銘打ったデモにはニコラス・マドゥロ大統領の退陣を求める何十万人もの市民が集結。抗議のうねりは全土に広がり、コロンビアとの国境に近いタチラ州でもデモ参加者の女子学生1人が銃弾を受けて死亡した。

ベネズエラではウゴ・チャベス前大統領時代から続く経済危機で、市民は深刻な物資不足にあえいでいる。政府の腐敗体質と独裁色を強めるマドゥロの政治手法に市民の怒りが噴出。マドゥロは高まる退陣要求を力づくで圧殺する構えだ。

【参考記事】ベネズエラは100%独裁政権になりました

18日のデモに先立ち、中南米の11カ国と米政府が合同で声明を出し、ベネズエラ政府に「平和的な抗議を行う権利」を保障するよう求めたが、マドゥロはこれを無視。治安部隊に弾圧を命じ、政府系民兵に武器を提供した。デモ当日、治安部隊が参加者に催涙ガスを浴びせるなか、民兵とデモ隊が衝突し、17歳の学生が銃撃されて死亡した。

貧困層もマドゥロに反旗

抗議の声が一気に高まったのは3月末。最高裁判所が野党の最後の砦とみられていた議会の機能停止を決定したため、市民が猛反発。これまで与党の支持基盤だった貧困地域にまでマドゥロ退陣を求める声が広がった。

【参考記事】南米の石油大国ベネズエラから国民が大脱走

ベネズエラではカトリック教会が大きな影響力を持ち、バチカンは昨年、政府と野党の対話の仲介を試みた。だが中立の立場での仲介では不十分だと、ベネズエラで抗議活動を行うホセ・パルマル神父は英ガーディアン紙に語った。「かつてヨハネ・パウロ2世がポーランドで(自由を求める闘いを支援)したように、フランシスコ教皇にベネズエラの人々を助けてほしいと訴えている」

マドゥロ政権は事態を鎮静化させるため最高裁の決定をすぐに撤回したが、野党つぶしの強引な手法は変えていない。マドゥロ政権の影響下にあるとされる最高裁は2月、民衆を扇動したとして14年近い禁固刑を科された野党指導者レオポルド・ロペスの上告審で、刑の確定を言い渡した。

さらに今月に入ってマドゥロ政権は、18年の大統領選の有力候補とみられていた野党指導者エンリケ・カプリレスに15年間の政治活動禁止を命じた。マドゥロは、チャベスが主導した「ボリバル革命」を資本主義の侵入から守るという大義名分を掲げて民兵を募り、抗議デモは米政府が仕掛けたクーデターだとして、民兵にデモ隊を襲撃させている。

【参考記事】「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中