最新記事

南米左派政権

南米の石油大国ベネズエラから国民が大脱走

石油頼みのチャベス主義が破綻、インフレと物資の不足、凶悪犯罪の増加が深刻で待望の議会選挙を前に国民の流出が止まらない

2015年12月22日(火)15時30分
ブリアナ・リー

脱却できる? チャベス亡き後もそのイデオロギーは受け継がれているが

 エクアドルの首都キト。サラアイ・トティ(47)が鉄板の豚肉を裏返すと、おいしそうな香りが漂う。彼女が作っているのは祖国ベネズエラの郷土料理。小さな店で、客も少ないが、それでも彼女は幸せだ。

 祖国ベネズエラでの彼女は人材関連の会社で働き、結構な給与をもらっていた。しかし1年前に家も車も家財道具も売り払い、子供2人も連れてエクアドルに移り住んだ。

 何カ月も前から何千、何万というベネズエラ人が国を逃げ出している。ニコラス・マドゥロ大統領の率いる社会主義政権の下で、同国が深刻な経済危機に陥っているからだ。

 原油の埋蔵量は世界一とされるベネズエラだが、今は世界で最も景気の悪い国の1つだ。インフレ率は3桁台で、生活必需品も手に入らず、おまけに暴力犯罪がはびこっている。国民が逃げたくなるのは当然だ。

 それでも今月6日には注目の議会選挙が行われる。国民が待ち望んでいた選挙で、99年に故ウゴ・チャベスが大統領に就任して以来初めて、野党が議席の過半数を制する可能性が高いとされている。

 野党連合はベネズエラを持続可能な成長路線に戻すことを公約に掲げた。野党の勝利となれば、それは過去16年にわたって同国を支配してきた「チャベス主義」(石油で稼いだ外貨と強硬な反米姿勢で国民の人気を取る政策)の終わりの始まりになるとの期待もある。

 だが投票日の直前になっても、現在の状況に絶望した国民の流出は続いていた。中には着の身着のまま、具体的な仕事の当てもないのに国を出て近隣諸国に逃げ込む人もいる。

 この1年、ベネズエラ経済の見通しは悪くなる一方だった。同国は外貨収入の95%を石油に依存しているが、原油価格の下落で外貨は底を突き、通貨ボリバルの為替レートは史上最低の水準にある。

 米ドルの欠乏で輸入業者は代金を払えず、国内ではミルクやトイレットペーパーのような必需品の不足も深刻を極めている。だから庶民は毎日の買い物でも、スーパーで何時間もの行列を覚悟しなければならない。

30%が国外移住を検討

 IMF(国際通貨基金)によれば、同国のインフレ率は今年、平均で約159%。中南米地域の成長率は低迷している(今年の予想成長率は0.5%)が、ベネズエラのGDPは10%ものマイナス成長となる見込みだ。

 マドゥロ政権は11月に、最低給与を月9649ボリバルへと30%引き上げた。公定為替レートの1ドル=199ボリバルで計算すると、約48ドルになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中