最新記事

韓国大統領選

韓国大統領選を中国はどう見ているか?

2017年5月7日(日)17時47分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この戸惑いがアン氏の人気を一気に下落させ、支持率に反映されてしまったようだ。

だからアメリカのTHAAD戦略が裏目に出たと中国は分析しているのである。

この一連の動きに関して、中国の中央テレビ局CCTVは特集を組んだほどである。

シリア攻撃で韓国大統領選を左右しようとしたと中国は分析

トランプ戦略が裏目に出たのはTHAADの経費要求を韓国にしてきたことだけではない。

そもそもシリア攻撃を発端として北朝鮮包囲網を形成すべく動いたトランプ大統領の戦略は、実は韓国大統領選に影響を与えようとしたのだと、中国は見ている。

つまりTHAAD配備に反対あるいは慎重であるムン候補が当選しないように、シリア攻撃をきっかけとして北朝鮮を追い込み、朝鮮半島情勢を緊迫化させることによってTHAAD配備を肯定せざるを得ない方向に持っていこうとした。結果、大統領選においてTHAAD配備に慎重なムン氏の当選可能性を下落させようと試みたと、中国は見ているのである。

ところが、戦争となったら最大の被害を受けることが明らかな韓国民は、「戦争状態に入ることに恐怖を抱き、戦争反対の方に動いた」。それがムン氏の支持率を高めたので、シリア攻撃で韓国大統領選を左右させようとしたトランプ大統領の試みは失敗に終わったというのが韓国大統領選に対する中国の分析だ。

トランプ大統領の計算は逆効果を生み、THAADの経費をこの時点で韓国に要求したことは、トランプ流「ビッグ・ディール」としては大失敗だったと、中国は「喜んで(?)」いる。

アメリカに直接抗議できなくなってしまった中国のジレンマ

韓国におけるテレビ討論後の候補者支持率の劇的変化に関する中国の反応は素早かった。

中央テレビ局CCTVは1時間後ごとの全国ニュースでこの結果を流したり、韓国庶民の「THAAD配備反対運動」に関する場面を何度も映し出し、特集を組んだりしている。

特に中国自身が韓国へのTHAAD配備に対して、中国の軍事配置が丸見えになるとして強烈な不満を持ちながらも、米中首脳会談以降、トランプ大統領と習近平国家主席による米中蜜月を演じているために、以前のように激しく対米抗議ができなくなっている。

そのため、韓国民の不満を用いて、アメリカへの抗議を代弁してもらっているという格好だ。

トランプ大統領の褒め殺しにより、北朝鮮包囲網を縮める方向で動いている中国だが、何と言っても中国が望む着地点は、米朝会談であって、全面戦争だけは絶対に反対。

したがって好戦派よりも北朝鮮融和派の当選を願っているのが本音だ。

9日にはいよいよ投票が始まる。

結果はどう出るのか。いずれにせよ、9日の結果が待たれる。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中印の公式声明を重視 トランプ氏の「原油購

ワールド

仏首相への不信任案否決、年金改革凍結で政権維持

ビジネス

BMWの供給網、中国系半導体ネクスペリア巡る動きで

ワールド

中国の大豆調達に遅れ、ブラジル産高騰で 備蓄放出も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中