最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く

私たちは「聖人君子の集まり」じゃない!

2017年4月12日(水)17時30分
いとうせいこう

話を聞いたレストランで演奏する大阪人チックなフィリピン音楽家。

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャで現場の声を聞き、今度はマニラを訪れた。そして日本人スタッフ 菊地寿加さんに、なぜMSFに参加し、どんな日常を送っているのかを聞いた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く
前回の記事:「マニラのスラムの小さな病院で

菊地寿加(すが)さん

「わたしは4月末からこっちへ来て、本来ならもう任務を終えて帰ってるはずなんですけど、子宮頸癌のワクチンが手元に届くのに時間がかかってしまったので、まだステイしてるんです」

国境なき医師団(MSF)の日本人看護師・菊地寿加(すが)さんは言った。場所はマンションから歩いてすぐのフィリピンレストランで、俺たちは夜の8時過ぎに玄関で待ち合わせて、薄暗い道を歩いてきたのだった。11月23日のことだ。

けっこうきちんとしたレストランだったので、特に俺は挙動不審になった。なにしろ2日間、スラムめしで暮らしていて早くもその生活に馴れてきていたからだ。背は小さいが元気あふれる女性、寿加さんも同じように店に少しおろおろしつつ、しかしフィリピンの典型的な料理を注文したあとは気さくにインタビューに応じてくれる。

冒頭の言葉はその中で出たもののひとつだ。

「届かないっていうと?」

「今は手元には届いてんるんですが、認可が思うように下りないので使うことが出来ないんです。医薬品の輸入にとにかく時間がかかります」

「あ、マネージャーとして困ってるわけですね」

「そうです。医療チームの予防接種マネージャーとして。よくご存知ですね」

そこで広報の谷口さんが説明する。

「いとうさんは何度か我々MSFへの取材をして下さっているので組織図も理解されています」

「あー、なるほど」

さらに寿加さんは言った。

「あと少しですべての認可がおりるはずなんですけど、あと1週間で12月じゃないですか?」

「はい」


「そうするとフィリピンの人はもう休暇モードなんです。クリスマスの月だから。なにしろカソリックの国ですし、こちらでは9月からクリスマスの用意が始まるんで」

そういえば、マニラの空港からマラテ地区へ向かう最初のタクシー内で、すでにワム!のクリスマスソングが流れていたのを思い出した。11月にずいぶん気が早いと思っていたが、あれはフィリピン的には季節にぴったりの選曲だったのだ。そして、あの頃はまだジョージ・マイケルも生きていた、とこの原稿を書きながら俺は感慨にふける。

「おまけにフィリピンの税関はリストをかなり細かく出さないといけないので、ますます時間がかかります。ノルウェーからフランスのロジステック・センターを経由してマニラに運ぶはずだったんですが、色々ともつれまして。その間にもワクチンの消費期限は迫ってくるのでこっちはヒヤヒヤで」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中