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米中関係

米中首脳会談ブリーフィング、米中の思惑

2017年4月3日(月)16時00分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

さらに加えて、ティラーソン国務長官から「新型大国関係」と同義語のような言葉を引き出したのだから、中国は「外交においてアメリカに勝った」と思っているのだ。中国共産党や中国政府系メディアが伝えている。

通商などの経済関係に関して

米中首脳会談で何が話されようと、中国の腹づもりは決まっている。

経済問題に関しては、2月12日のコラム<「トランプ・習近平」電話会談は、なぜ安倍首相訪米に合わせたのか?>で述べたように、水面下で米財界人と習近平政権がつながっていることから、中国は心配していない。

主としてトランプ政権の経済政策などについて助言を行う「大統領戦略・政策フォーラム」(以下、フォーラム)の議長を務めている米投資会社ブラックストーン・グループの最高経営責任者(CEO)のシュワルツマン氏が、習近平の母校である清華大学の経済管理学院顧問委員会(以下、顧問委員会)の委員にもなっていることは、同コラムで詳述した。

シュワルツマン氏以外にも、米銀行最大手のJPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモン氏も顧問委員会のメンバーであると同時にフォーラムのメンバーであることがわかっている。

その後、顧問委員会の2016年新メンバーを調べてみたところ、実は電気自動車事業のテスラ・モーターズや宇宙事業のスペースXなどの創設者として知られるイーロン・マスク氏が入っていることが分かった。彼はシュワルツマン氏の推薦によってフォーラムメンバーにも入っている。

つまり、フォーラムと顧問委員会の中には、3名も両方のメンバーを兼ねている者がいるということになる。しかもいずれ劣らぬ世界のトップを走る財閥や企業家たち。ここでつながっている限り、中国は怖がっていない。

中国の最大の悩みは北朝鮮問題

中国にとって最も頭が痛いのは北朝鮮問題だ。進退窮まるようなジレンマの中にある。

アメリカは「すべての選択肢はテーブルの上にある」として北朝鮮への武力的な先制攻撃をちらつかせている。万一にもアメリカが金正恩委員長だけを狙った攻撃に出たときに、中国はアメリカと協力する可能性があるだろうか。

極端な例ではあるが、念のため中国政府関係者にぶつけてみた。

「ない!」

一言の下に、その可能性を全面否定した。そのようなことをしたら、新しい北朝鮮政権にはアメリカの力が及ぶことになり、韓国によって朝鮮半島が統一されることにつながる恐れがあるという。彼は以下のように続けた。

――北の要望は、アメリカが北を振り向くことだ。北の核開発やミサイル発射を受けて制裁を繰り返しても、その間に北は核・ミサイルの技術を向上させていくばかりで、隣にいる中国にとっては危険この上ない。アメリカは地政学的なことを考えるべきだ。中東に関してだってそうだ。ISなどのテロ組織を生んだ元凶はアメリカにあるのに、テロを逃れようとする難民は入国させまいとしている。アメリカはいつも自分は無難な場所にいて、実に無責任だ。アメリカは他国に軍事的介入ばかりせず、そしてアメリカの軍事産業者たちからの圧力に負けずに、対話の道へと歩み寄るべきだ。

彼は北朝鮮問題に関する中露の軍事提携や北朝鮮国境における中国人民解放軍に関しても言及したが、長くなり過ぎたので別途改めて分析することとする。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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