最新記事

ナノテク

究極のブラックホールをつくりだす、地上で最も黒い素材とは?

2017年3月30日(木)12時00分
松岡由希子

Photoshopで加工したわけではありません  Surry NanoSystems

<英企業「サレー・ナノシステムズ」が開発した、紫外線や赤外線、可視光の99.965%を吸収する、地上で最も黒い人工物『ベンタブラック』の活用が拡がりつつある>

『ベンタブラック(VantaBlack)』とは、紫外線や赤外線、可視光の99.965%を吸収する、地上で最も黒い人工物。英国の国立物理学研究所(NPL)らとの提携のもと、英スタートアップ企業のサレー・ナノシステムズ(Surry NanoSystems)によって2014年に開発されたものだ。近年、軍事および航空宇宙分野を中心に、その活用が広がりはじめている。

物体は、光があたると、その反射の強さによって、ヒトの目などにある光受容体への光が多くなったり少なくなったりすることで、明るく見えたり暗く見えたりする。

『ベンタブラック』は、"垂直に並んだナノチューブの配列(Vertically Aligned NanoTube Arrays)"の頭文字から名付けられているとおり、1平方センチメートルあたり約10億本ものナノチューブが小さな森のように集まって成長する構造となっており、光があたると、ナノチューブの中で光が何度も屈折し、吸収される仕組み。それゆえ、『ベンタブラック』は非常に暗く、たとえ超高出力のレーザーポインターをこれに照射させても、光はほとんど認識されることがない。


サレー・ナノシステムズは、2016年3月、『ベンタブラック』をスプレー式に改良した『ベンタブラックS-VIS』の量産を開始。紫外線や赤外線、可視光の吸収率は99.8%と、『ベンタブラック』に比べて低いものの、耐熱温度が摂氏100度以下の物体であれば、カメラや電子機器、精密機器など、様々なものに柔軟に適用できるのが特徴だ。

【参考記事】太陽光だけで二酸化炭素をエネルギー資源に変換する新たな分子が誕生

たとえば、2016年2月から英ロンドンのサイエンス・ミュージアムで展示されていた作品によると、『ベンタブラックS-VIS』をスプレーした彫刻は、表面の複雑な凹凸を目で認識しづらいことがわかる。


『ベンタブラック』は、『ベンタブラックS-VIS』の量産化にも後押しされ、様々な分野で導入されはじめている。2016年5月には、シンガポール国立大学が開発した小型衛星『Kent Ridge 1』の光学機器において『ベンタブラック』を採用。機器の表面に『ベンタブラック』をコーティングすることによって、余分な光を効率的に吸収できるそうだ。

米航空宇宙局(NASA)でも、2011年、摂氏750度以上で生成され、紫外線や可視光などを99%以上吸収する素材の開発に成功しているが、『ベンタブラック』は、NASAの素材よりも低い温度で生成できることから、より幅広い活用が期待されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中