最新記事

デンマーク

欧米でブームの「ヒュッゲ」で日本人も幸せになれる?

2017年3月27日(月)15時51分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

童話作家アンデルセンも暮らしたコパンハーゲンの代表的観光地ニューハウン(写真提供:兼高佐和子)

<世界一幸福だとされるデンマーク人の考え方、「ヒュッゲ(hygge)」が今、世界的に注目されている。果たしてヒュッゲとは何か。日本人も会得できるものなのか>

デンマーク人は「世界でいちばん幸福」ともいわれる。今、その秘訣とされる「ヒュッゲ(hygge)」が世界的に注目されている。

「ヒュッゲ」とは何か。デンマーク語の言葉だが、なぜ国を超えてブームになっているのか。ヒュッゲの謎を解くべく、大阪大学と関西外国語大学でデンマーク語を教える大辺理恵氏と、国連職員としてコペンハーゲン在住の兼高佐和子氏に話を聞いた。

大辺氏によると、「ヒュッゲ」とは気を使わずにくつろげる状態を指すという。

「キャンドルが灯っている様子をヒュッゲと言うこともありますし、家族や友達と家でくつろぐことも、お茶を飲みながら一人で本を読むこともヒュッゲです」

デンマークは、冬はマイナス10度と北海道と同じくらいの気温だ。しかし現地に暮らす兼高氏によれば、電力の多くを風力発電でまかなえるほど風が強いため、体感温度はもっと低く、冬の間は外にいることができないくらいだという。

「家の中が数少ない、ヒュッゲな空間といえます。今年の冬、同僚たちと詩の朗読会をしました。キャンドルの灯る室内は暖かく、とても幸せな気持ちになりました。寒さだけでなく、慣れない異国の地で働く私たちの心身を守ってくれるのが、このヒュッゲです」と兼高氏は言う。

hyuggebook170327_pic2.jpg

まさにヒュッゲ。家庭で行われた詩の朗読会の様子(写真提供:兼高佐和子)

なぜ欧米で「ヒュッゲ」が流行しているのか

この"デンマーク流の幸せ"が今、欧米でもてはやされている。なぜだろうか。将来への不安、未来の不透明さが先進国を覆い、今ここにある幸せをじっくり見直す風潮が、ヒュッゲ・ブームの背景にあるのではないかと大辺氏は分析する。

「惜しくも受賞とならなかったものの、『ヒュッゲ』は2016年度のイギリスの流行語大賞の最有力候補でした。昨年、イギリスはEU離脱問題、アメリカでもトランプ大統領の誕生で人々の間に将来への不安が広がりました。まずはイギリスでブームになり、それからアメリカに飛び火しました」

この「ヒュッゲ・ブーム」に乗って、デンマーク人のMeik Wikingが書いた『The Little Book of Hygge: The Danish Way to Live Well』や、イギリス人ジャーナリストのヘレン・ラッセルの著書『The Year of Living Danishly: Uncovering the Secrets of the World's Happiest Country』が、イギリス、アメリカ、カナダなど英語圏で大ベストセラーになった。

ラッセルの著書は今月、『幸せってなんだっけ?――世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年』(鳴海深雪訳、CCCメディアハウス)として日本語版が刊行されたが、他にも直近ではドイツ語、ポルトガル語、ロシア語、リトアニア語、ポーランド語、中国語、韓国語、さらにはデンマーク語版まで出るという。

デザインや福祉制度、ライフスタイルなど、デンマークの外的な面は今までも注目されてきたが、ヒュッゲのような考え方や生き方といった内面的な部分がこれほど注目されたのは初めてだ。

いま、世界中のデンマーク語教師にヒュッゲの問い合わせが殺到し、皮肉にもヒュッゲとはいえない状況が続く。また、急速に広まったため「ヒュッゲ」「ホーガー」など英語圏でも読み方が統一されず、世界中のデンマーク語教師の中で発音に関する議論が活発化しているという(ちなみに日本語でも本当は「ヒュッゲ」ではなく「ヒュゲ」がいちばん近い発音とのこと)。


『幸せってなんだっけ?――世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年』
 ヘレン・ラッセル 著
 鳴海深雪 訳
 CCCメディアハウス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 8
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 9
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 10
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中