最新記事

イギリス社会

英国警察はなぜ丸腰? ロンドンのテロ事件受けて変わるか?

2017年3月27日(月)14時00分
松丸さとみ

テロの後、ウェストミンスターの警官に花を渡す市民 Hannah McKay-REUTERS

英国の国会議事堂で起こったテロ事件は、警官を含む4人が犠牲になった。刃物で襲われたこの警官は、銃を携帯していなかった。というのも、一般市民の銃所持が合法の米国とは対照的に、英国では警官でさえも基本的に銃を携帯していないためだ。

英国警官は丸腰

テロを受けてロンドンのサディク・カーン市長は、「ロンドン市民はテロの脅しに決して屈しない」との声明を発表。「ロンドンは世界でも有数の安全な都市であり続ける」と語った。

ロンドンを含め英国の警官は、一部の特殊部隊を除き基本的には拳銃を所持していない(北アイルランドを除く)。世界的に安全な都市と言われる東京でさえ、警官は常に銃で武装していることを考えると、ロンドンがいかに普段は危険ではないか、想像に難しくないだろう。

ワシントン・ポストによると、警官が拳銃で武装していない国は世界的にも珍しく、英国のほかにはアイルランド、アイスランド、ノルウェー、ニュージーランドなどごくわずかだ。

「武器は市民との間に壁を作る」

英国のマンチェスターで2012年、勤務中の警察官2人が銃と手投げ弾で襲われ殺害された事件があった。これを受けて、警察官は銃を携帯すべきだという世論が持ち上がったが、当時のグレーター・マンチェスター警察署長は記者会見で、「英国の警察業務は武装しないということに、我々は情熱を持っている」と、方針に変わりないことを強調。さらに、「米国や他国での事例を見ても、武装すれば警官が射殺されない、ということにはならない」と指摘した。

警官が武装していない理由はさまざまだが、歴史的背景も大きい。ウォルバーハンプトン大学のワディントン教授がBBCに語った話によると、ロンドン警視庁が設立された19世紀当時、軍は市民から恐れられており、武器を持った赤い制服を身につけた軍隊と差別化するために、警官は武器を持たず青い制服を身につけたという。

また、ロンドン警視庁のホーガン=ハウ警視総監はNBCニュースに対し、英国の警察は市民の一部であり、武器は市民と警察の間に壁を作ってしまうため、銃を携帯していないと説明した。現在、ロンドン警視庁の警官の90%以上が銃を携帯していないという。警官が携帯している武器は、警棒、催涙スプレーなど。これで、860万人超のロンドン市民や世界中から集まる観光客を守っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは一時156.21円、34年ぶり高値

ビジネス

日経平均は反発、日銀現状維持で一段高 連休前に伸び

ビジネス

ANAHD、今期営業益予想18%減 コロナ支援策の

ビジネス

村田製、発行済み株式の2.33%・800億円を上限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中