最新記事

BOOKS

児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態

2017年2月23日(木)11時35分
印南敦史(作家、書評家)

・朝、周囲よりも早く起きてしまうと、他の子どもがちゃんと眠れないから早起きは禁止
・子どもたちが脱走しないように、窓が5センチ程度までしか開かない
・子どもたちが裸足でも靴でもなく靴下を履いて過ごす一方、職員は全員スニーカー。理由は、逃げ出しにくいようにしつつ、逃げても捕まえやすいように
・性関連のトラブルを避けるため男子と女子の交流は禁止
・食事中の私語が禁止されているため、食事のスピードが速くなる
・荒れてしまうことがあるため、一定数の子どもに精神安定剤を飲ませている

これらはほんの一部の例だが、文字を目で追っているだけでも身につまされるような話である。子どもたちの様子を眺めながら著者は、刑務所内の人間関係を描いた映画『ショーシャンクの空に』を思い出したというが、なんとなく理解できる気もする。


 教育と養育は子どもの成長における両輪であり、両者がバランスよく存在してこそ、人は本当の意味で成長をします。しかし、抑圧的な一時保護所では、生活のすべてが規律によってコントロールされており、教育はあっても養育の観点は感じられません。そこでは子どもが心から安心を感じることはできないのではないかと思います。(91ページより)

しかし、ここで誤解すべきでないのは、職員たちが決して憎しみなどの感情から子どもたちを縛り付けているわけではないということである。実際、強い規律を課すことには理由があるのだという。

まずは、さまざまな罪を犯した子、虐待を受けて心に傷を抱えた子、発達障害のある子などを1カ所に集めているだけに、「子どもたちを従順にさせる以外に方法がない」ということ。第2の理由は、職員数の少なさ。そして第3が、そもそも職員が子どもの状況について想像力を持っていない場合が多いということだそうだ。


「私であっても、携帯電話を取り上げられて、閉じ込められた場所で生活していると、一週間で気が狂うと思う。しかも、こういうところに来る子どもは、そもそも様々な意味で『不健康』な子どもなのに。
 いくら私たちが必死にやっても、子どもたちが『ここは牢屋だ』と思うのはどうしようもない。子どもたちはカゴの鳥のような心境だろう。先日も二カ月以上ここにいる女の子が、『私がここに"連れてこられてから"、もう二カ月になる』とこぼしていて、心が痛かった。一時保護期間は、短くあるべきだ」。(96ページより)

ところで一時保護された子どもたちは、その後どうなるのだろうか? 著者によれば、半分強は家庭に戻り、一部の子どもはそのまま病院に移ることも。そして残る約4割の子どもが社会的養護に入ることになるのだそうだ。

【参考記事】子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米住宅ローン金利7%超え、昨年6月以来最大の上昇=

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は1%増益 利益が予

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中