最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

選挙ボランティアから見える、大統領選「地上戦」の現状

2016年10月6日(木)17時30分
渡辺由佳里(エッセイスト)

<両候補の支持率が拮抗したまま本選が近づくアメリカ大統領選。戸別訪問など伝統的な選挙運動の「地上戦」では、ヒラリーが大差をつけているように見えるが......>(写真:選挙ボランティアの活動について説明するヒラリー陣営スタッフ〔筆者撮影〕)

 2016年の大統領選では、政治経験がまったくなく、共和党員でもなかったトランプが共和党の指名候補になった。このような異常な選挙では、常識は通用しない。

 これまでの大統領選では、選挙スタッフとボランティアが地元で投票者に直接働きかける「地上戦」や、テレビやラジオでのコマーシャルが不可欠だった。これらに費やす選挙資金を集めることができない候補は、最初から勝ち目がないとみなされていた。

 しかしトランプは、ツイッターを巧みに使って最低限のコストでファンを集め、連日のように問題発言を繰り出してメディアを無料PR媒体として利用した。トランプはこの「常識はずれ」の戦略で、膨大な選挙資金を準備して地上戦の闘い方を知っていたジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオに予備選で勝ってしまった。

 だが、予備選と本選は異なる。

【参考記事】「トランプ隠し」作戦が効いた、副大統領候補討論の評価

 まず勝利を決めるシステムが違う。予備選は、それぞれの党が定めた代議員の過半数を獲得した候補が勝者だった。本選では、各州の「選挙人」の過半数を獲得した者が勝者となる。

 アメリカ大統領選挙は、国民ひとりひとりの投票が直接反映する「直接選挙」ではなく、「選挙人」を選ぶ選挙だ。「選挙人」の数はその州の人口から割り出され、どんなに僅差であっても勝者が州の選挙人を総取りするシステムだ(メイン州とネブラスカ州は例外)。選挙人の数は全部で538人なので、270取ったほうが勝つ。

 多くの州は、共和党か民主党に偏っており、選挙前から勝敗が決まっている。だが、保守とリベラルの住民が拮抗し、共和党と民主党のどちらの大統領の候補を選ぶか、わからない州もある。それらの州は「スイング・ステート」と呼ばれ、大統領選を決める主戦場となる。オハイオとフロリダがよく知られているが、ほかにも、ウィスコンシン、ペンシルバニア、ニューハンプシャー、ミネソタ、アイオワ、バージニア、ミシガン、ネバダ、コロラド、ノースカロライナなどが今年の選挙で注目されるスイング・ステートだ。

 通常の大統領選では、予備選に勝った指名候補は、すぐさま州の党本部と協力してスイング・ステートに事務所を設け、スタッフを配置する。ところが、予備選の勝利が民主党より早く決まっていたにもかかわらず、トランプはこの時間を利用してクリントンより先に地上戦を開始しなかった。最初のうちは予備選と同様にツイッター中心の戦略を続けていた。

 その結果、地上戦でトランプはクリントンに大きく出遅れた。投票を2カ月後に控えた8月末の時点で、スイング・ステートにあるトランプの事務所の数は、クリントンの3分の1以下という有様だ。しかも、地元の共和党との協働もスムーズではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中