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テスラが繰り出す強気の安全対策

2016年10月4日(火)11時00分
ウィル・オリマス

 路面に隆起や陥没がある場合、レーダーは上方にある道路標識や高架道路を、前方の障害物だと誤認することがある。マスクに言わせれば、この課題を乗り越えられるのはテスラだけ。同社は全車の走行データを収集・記録しているからだ。

 バージョン8・0では当分の間、レーダー情報だけでは緊急ブレーキは作動しない。潜在的な障害物としてレーダーに表示された物体について、安全に通行できたか否かが記録される。データを蓄積して障害物と認識すべきでない「例外」をリスト化し、誤検知が減った時点でレーダーの判断に基づいてブレーキが作動するようになるという。

 今回の更新では、過度なオートパイロット任せを防ぐ機能も加わった。ハンドルから手を離した状態が続くと、手を戻すよう指示する警告音が鳴る。1時間に3回以上鳴った場合はいったん駐車しない限り、自動機能は使えなくなる。

 言うまでもなく、今さら何を改善しても、モデルSの事故で亡くなったジョシュア・ブラウンは生き返らない。それでもマスクはバージョン8・0発表の席で、自動運転車を発売したことは後悔していないと語り、新たな死亡事故や負傷事故の発生は不可避と考えていると述べた。

【参考記事】テスラが描くエネルギー新世界

 マスクの見方によれば「死者がゼロになることはあり得ない」。ソフトウエアの更新は事故の「確率を最小値にする」ことが目的で、「パフォーマンスが大きく改善されることに自信を持っている」という。

 その一方で、自省の念がうかがえた瞬間もあった。ブラウンの死を意識してか、マスクはこう言った。「もちろん、(ソフト更新を)もっと早くできればよかったと思っている」

 マスクは一瞬黙り込み、それからいつもの強気を取り戻した。「だが完璧を求めていては、よい行動はできない。最初から理想的な解決策を手に入れることはできない。どんな場合でも」

© 2016, Slate

[2016年10月 4日号掲載]

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