最新記事

戦争犯罪

国際刑事裁判所(ICC)を脱退するアフリカの戦犯たち

2016年10月20日(木)17時40分
コナー・ギャフィー

Goran Tomasevic-REUTERS

<政治指導者の戦争犯罪や人道に対する罪を裁くICCに訴追されたブルンジが世界で初めて脱退を可決。ヌクルンジザ大統領は暴動に乗じて国民を殺した罪を償なわずに逃げる構え。他の独裁的アフリカ諸国も後に続けば、ICCの権威は地に堕ちる> (写真は、ヌクルンジザが3期目の大統領に就任しようとしたのをきっかけに広がった暴動の様子)

 アフリカ中部ブルンジのピエール・ヌクルンジザ大統領は18日、国際社会の異端の道を突き進むべく新たな行動に打って出た。

 ブルンジの国会は10月上旬、国際刑事裁判所(ICC)から脱退することを定めた法案を賛成多数で可決、18日にヌクルンジザが署名し成立した。これにより、ブルンジはICCの設立規定を定めた国際条約「ローマ規定」から脱退したことになる。脱退の時期について、ローマ規定は国連事務総長への通知から1年後と定めているが、ブルンジ政府は法律がただちに施行されると発表した。

【参考記事】25カ国に迫る内戦勃発の危機
【参考記事】ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

 ICCは大量虐殺や人道に対する罪を含む重大な犯罪を国際法に基づいて裁く目的で、1998年にオランダのハーグに設立された。今回ブルンジが脱退すれば、初のケースとなる。

対象はアフリカばかり

 ICCの主任検察官でガンビア出身のファトゥ・ベンスダは今年4月、ブルンジにおける人権侵害の予備調査に着手した。対象になったのは、ヌルンジザが大統領選への3選出馬を発表した2015年4月以降の状況だ。出馬に抗議する市民に対する治安当局の激しい弾圧や軍幹部によるクーデターの失敗で、多数の死傷者が出た。ベンスダは当初、430人以上が殺害された模様だと述べた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、衝突が始まってから30万人以上の住民が隣国などへ逃れて難民になった。

【参考記事】スーダン戦犯におもねる国連の機能不全


 本格調査に乗り出すというICCの決定は、ヌクルンジザを苛立たせた。さらに国連は9月、ブルンジで2015年4月以降に564件の処刑が実施された事実を立証できたと主張、その多くは治安部隊が反対派とみなした勢力を弾圧するために行なわれたとする報告書を公表した。こうした動きに激怒したブルンジ政府は報告書の受け入れを拒否し、それ以降は国連調査団の受け入れも拒否している。

【参考記事】音楽も、サッカーも禁じられ、歌を歌った女性は鞭で打たれたマリ共和国の恐怖政治

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中