ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

2016年10月18日(火)17時10分
米川正子(立教大学特任准教授、コンゴの性暴力と紛争を考える会)

都内で講演するデニ・ムクウェゲ医師   写真:コンゴの性暴力と紛争を考える会

<紛争の手段として残虐な集団レイプが行われ、「女性にとって世界最悪の地」と呼ばれるコンゴ東部で傷ついた女性たちの体と心の治療にあたってきたコンゴ人婦人科医ムクウェゲが初来日。講演では語りきれなかった性暴力の実態、性暴力が起こる構造、ノーベル平和賞候補とも言われるムクウェゲが置かれた環境などについて、日本でムクウェゲにアテンドした筆者が記す>

 10月上旬にコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)人の婦人科医、かつ人権活動家のデニ・ムクウェゲ医師(Dr. Denis Mukwege)が初来日し、コンゴ東部における性暴力と紛争鉱物について2回講演した。過去数年、ノーベル平和賞受賞有力候補に挙がっているムクウェゲ医師は欧米では非常に著名で、これまで国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(2014年)、サハロフ賞(2014年)などさまざまな賞を受賞し、何回も欧米で講演している。しかし、東アジアの訪問は今回が初めてだ。

161017_001.jpg

 ムクウェゲ医師の初来日は予想以上に注目を浴びた。大手メディア8社から単独インタビューを受け、全国・地方新聞やテレビで大きく取り上げられ、その他、講演の参加者のブログが10万人以上によって閲覧された。

 なぜこのような「ブーム」が起きたのだろうか。それには理由が3点挙げられるだろう。第1に、ムクウェゲ医師のカリスマ性、教養の高さとメッセージの強さから、誰もが同医師に人間としての魅力を感じたことだ。それは映画だけでなく、本人との対面を通して確認できた。第2に、ムクウェゲ医師の来日のタイミングが大変良かったことである。偶然にもノーベル平和賞の発表直前、そして今年6月以降、さまざまな会場で上映されているムクウェゲ医師のドキュメンタリー映画『女を修理する男』が、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民映画祭での上映時期と重なったことだ。

 そして第3に、私が知る限り、性暴力ならぬ「性的テロリズム」(後述)、紛争鉱物とグローバル経済の関係性は日本で初めて取り上げられたテーマであることだ。我々が使用している携帯電話内にコルタンというレアメタルが含まれているが、その多くが、コンゴ東部で採掘されたいわゆる「紛争鉱物」(当該鉱物の採掘・流通にともなう利益が、政府あるいは武装勢力によって紛争資金に利用されている鉱物)である可能性が高い。その紛争鉱物と携帯電話の関係について過去約15年間にわたって、日本のメディアは数回報道してきた。しかし、今回、テレビ番組の「コンゴの医師が訴え、"性暴力"意外な背景」や「コンゴ紛争と日本、意外な接点とは」といったタイトルからわかるように、紛争鉱物と性的テロリズムとの関係は日本人にとって新しい発見であっただろう。しかも、その性的テロリズムが性的欲求ではなく、経済的な理由から組織的に生じていること、そしてそれが日本に住む我々の生活にも直結している事実にショックを受けた人は多かったに違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=米当局がレートチェック、155.66

ビジネス

米国株式市場=ダウ下落・S&P横ばい、インテル業績

ワールド

米ロ・ウクライナ三者協議、初日終了 ドンバス領土問

ワールド

韓国首相、バンス米副大統領とワシントンで会談=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 10
    3年以内に日本からインドカレー店が消えるかも...日…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中