最新記事

トルコ

トルコ、アレッポでクルド人勢力を空爆、戦闘員160人が死亡

2016年10月21日(金)16時00分
ジャック・ムーア

Ammar Abdullah-REUTERS

<アレッポのISIS掃討作戦でアメリカが最も頼りにしているクルド人勢力をトルコ軍が空爆。ISISを追い出した後にクルド人の国ができるのを恐れてのことだが、アメリカとの関係悪化は避けられない>(写真は、2013年にシリア政府軍の空爆を受けたときのアレッポ)


 トルコ軍は19日、シリアのアレッポ北部で米軍が支援するクルド人勢力の拠点を空爆し、少なくとも160人の戦闘員を殺害した。20日にトルコの国営メディアが伝えた。

 トルコのアナドル通信社によると、トルコ軍は19日未明に作戦を実施、アレッポ近郊のマーラート地区にある拠点や武器庫18か所を空爆した。シリア北部のクルド人勢力に対するトルコの軍事行動がエスカレートしたことを象徴する作戦だ。NATO(北大西洋条約機構)の同盟国であるトルコとアメリカの関係が一層悪化する恐れもある。

 一方、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の最大拠点であるイラク北部のモスルでは、イラク政府軍とクルド人勢力が奪還作戦を進行中だ。トルコもISIS掃討作戦の一環でシリア北部の反政府武装勢力を支援する一方、同地域でイスラム過激派組織の掃討に成果を上げているクルド人勢力の台頭に神経をとがらせてきた。

 今回の作戦はそんな最中に起きた。

クルド人の国は許さない

 トルコはクルド人武装勢力にはISIS掃討以外の目的があると疑っている。シリアのクルド民兵組織「人民防衛隊(YPG)」は、ISISが首都と位置付けるラッカがあるラッカ県の境までISIS戦闘員を撃退し、シリア北部を防衛していると主張する。だがトルコ政府から見れば、この地域で2つの行政区を支配下に置き、トルコとシリアの国境のシリア側に「ロジャバ」というクルド人の自治領を築こうとしているように見える。

【参考記事】トルコ軍の対ISIS越境攻撃はアメリカにプラス

 トルコはクルド人勢力が自治を求めるいかなる動きにも反対し、シリアのクルド人組織YPGはトルコがテロ指定している反政府組織「クルド労働者党(PKK)」と関係があると見なしている。PKKはトルコからの分離独立をめざして30年にわたり武力闘争を繰り広げており、これまでに数万人の死者を出した。

 トルコ政府は2015年7月に約2年続いたPKKとの停戦を破棄し、PKKに対する掃討作戦やクルド人が多く住むトルコ南部での軍事作戦を強化した。トルコが今年8月にシリア北部への越境攻撃を仕掛けたのは、ISISの掃討だけでなく、クルド人武装勢力が支配地域を拡大することを牽制し、その野望を挫くためだった。

【参考記事】ISISはなぜトルコを狙うのか

 トルコにとってYPGは過激派組織であり大きな敵だが、皮肉にもアメリカはYPGをISIS掃討で最も頼りにしており、地上戦でISISを倒せる最も優れた武装勢力だと考えている。トルコの空爆によってアメリカの計画には狂いが生じかねず、両国の関係も緊張しそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ユーロ、対ドルで約7週間ぶり高値 好

ワールド

米特使・プーチン氏会談、「まずまず良い」協議だった

ワールド

ドイツ、防空システム「アロー」導入 ロシアの脅威に

ビジネス

米国株式市場=続伸、指標受け利下げ観測継続 マイク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中