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オルタナ右翼とゲーマーゲートと呼ばれる事件の関係

2016年9月21日(水)17時45分
八田真行(駿河台大学経済経営学部専任講師、GLOCOM客員研究員)

新たなターゲット、フェミニストのメディア批評家

 あまりに個人攻撃がひどいということで、こうした手合いは4chanから叩き出されてしまい、新たに8chan(8ではなく無限マークなので、インフィニティチャンと読む)というサイトを立ち上げたのだが、このこともまた、4chanですら管理人がエスタブリッシュメントと結託しているという陰謀論につながった。アメリカではこの手の「陰謀」には、ウォーターゲート事件にちなんで○○ゲートという名前が付けられることが多い。このころになるとゲーム以外の大手メディアや著名人等もTwitterなどで取り上げるようになっていたが、ご多分に漏れず今回の騒動にも「ゲーマーゲート」との名が与えられて定着することになった。

 さらに、ある意味絶好のタイミングで新たなターゲットが登場した。それがアニタ・サーキージアンである。この人はフェミニストのメディア批評家で、ゲームにおける女性の描かれ方のパターンをフェミニズム的な視点から分析する動画のシリーズ「ヴィデオゲームにおける比喩対女性(Tropes vs. Women in Video Games)」を展開していた。彼女のプロジェクトは2012年から始まっているので、厳密には「新たな」ターゲットというわけではないのだが、たまたまクインの話題が沸騰していた時期に新エピソードを公開したので、まさにガソリンタンクを背負って火事場に飛び込むようなことになってしまった。

 サーキージアンの動画は、最初の2つは日本語字幕付きで見られる(他も英語の字幕はある)ので、視聴をお勧めする。


 例えば第1回の動画の冒頭では、スターフォックスアドベンチャーというゲームが取り上げられる。原案ではクリスタルという女性の主人公がモンスターと戦って世界を救うゲームだったのが、実際にリリースされたゲームではクリスタルは無力な捕虜であり、男性の主人公に救出されるのを待つだけの、セクシーな衣装を着た「囚われの姫君」(damsel in distress)に過ぎなくなっている。このように、ゲームにおける女性の描き方の典型的なパターンには、女性の役割の固定化や性的欲望の対象化という形で女性差別が埋め込まれていて、さらにそうした女性観がゲームで遊ぶことで再生産されていくのだ、云々、といったものである。

 私はフェミニズムに詳しくないのだが、一口にフェミニズムと言ってもいろいろあるらしく、サーキージアンはラディカル・フェミニズムというグループに属するらしい。サーキージアンのような主張は、ゲームに限らず、例えばアニメやマンガ等の表現規制に関する議論でもよく見られるように思うが、ラディカル・フェミニズムは、ポルノグラフィなどの性的表現は女性を人格のある人間ではなく、性的欲望の対象としての単なる記号的なモノとして捉える(sexual objectification)ため、それが社会的差別や女性蔑視の再生産につながるという立場に立ち、表現規制に関して特に強硬な主張をすることで知られる一派のようである。

 個人的には、これはかなり根拠があやふやな話のように思われるのだが、サーキージアンは、これをゲームに応用したのだろう。いずれにせよ、サーキージアンもクイン同様に激しいオンライン・ハラスメントの対象となり、大学での講演が乱射予告で中止になったり、FBIが出動する騒ぎともなった。

 以上がゲーマーゲート事件のあらましだが、では、これがどうオルタナ右翼と結びつくのか。

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