最新記事

日本社会

「国籍唯一の原則」は現実的か?――蓮舫氏の「二重国籍」問題をめぐって

2016年9月9日(金)19時50分
韓東賢(日本映画大学准教授)

Kim Kyung Hoon-REUTERS

差別的な追及、偏狭な国家観の表れ

 民進党代表選に出馬した蓮舫氏をめぐって、「国籍」問題が取りざたされている。国会議員であることから日本国籍を所有していることに間違いはないが、台湾人の父親と日本人の母親の間に生まれたダブルであることから、父親から受け継いだ台湾の「国籍」も所有した二重国籍の可能性がある、という指摘である。

 これに対し蓮舫氏は6日の会見で、17歳だった1985年に父とともに東京にある台湾の代表処で台湾国籍放棄の手続きをしたと記憶しているものの言葉の問題から正確には把握しておらず、現在、台湾側に確認中だが時間がかかるかもしれないので同日、改めて国籍を放棄する書類を都内の台北駐日経済文化代表処に提出したと明らかにした。

 蓮舫氏に対し、「二重国籍」の可能性を問題視するような指摘について、筆者は大きな疑問をいだく立場である。日本国籍を持っている以上そもそも何の違法性もなく、差別的で理不尽な追及だ。「単一民族神話」を前提とする偏狭な国家観、国籍観の表れだろう。

 ここでは国籍制度に関する基本的な事項を踏まえながら、主に事実関係について整理してみたい。

国によって異なる国籍付与の要件

 ある人に「国籍」を付与することができるのはその当該国だけだ。国籍付与は各国の主権の問題であるため、その要件は国ごとに異なっている。要件について定める各国の国籍法には、大きくわけて血統主義と生地主義の2つの考え方がある。

 血統主義は、その国の国籍を持った人から生まれた子どもにはその国籍を与えるもので、その際、どこで生まれたかは問わない。代表的なのは日本や中国、韓国などの東アジア諸国、スウェーデンやイタリア、オランダなどの欧州諸国だ。

 生地主義は、その国の領域内で生まれた子どもにはその国の国籍を与えるもので、どの国籍を持った人から生まれたのかは問わない。代表的なのはアメリカやカナダ、オーストラリア、ブラジル、ペルーなどの移民国家や南米諸国だ。

 とはいえほとんどの国では、たとえば日本だったら父母がともに不明の場合などの例外的なケースや、条件つきで、異なる「主義」も取り入れた折衷的な制度設計になっている。

日本では1985年から父母両系血統主義

 日本の国籍法は現在、父母両系の血統主義を採用している。つまり父母いずれかが日本国籍を所有している場合、子どもが日本国籍を取得できるということだ。とはいえ現行の国籍法が制定された1950年当時は、父系による血統主義を採用していた。つまり両親が国際結婚した子どもは、日本国籍を父親からしか受け継ぐことはできなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テマセク、運用資産が過去最高 米国リスクは峠越えた

ワールド

マレーシア、対米関税交渉で「レッドライン」は越えず

ビジネス

工作機械受注、6月は0.5%減、9カ月ぶりマイナス

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中