最新記事

民主政治

インターネットで政治は変わる? 海賊党・欧州議会議員と考える「液体民主主義」の可能性

2016年9月5日(月)17時20分
Rio Nishiyama

 ギリシャのポリスでおこなわれていたような、共同体の構成員全員がすべてのイシューに直接投票して政策を決める「直接民主制」は話し合いや意思決定に時間がかかりすぎるし、イシューの答えがYES/NOに二極化してしまう。逆に、いまほとんどの民主主義国家で行われている、有権者が数年に一回選んだ代表者にすべての政策の意思決定を委任する「間接民主制」は、この複雑化した現代社会においては十分に市民の声を代弁し得ない。

 そのようなジレンマのなかで、直接民主制と間接民主制双方の長所を組み合わせてあらたな民主政治の形をつくろうとしたのが、液体民主主義のはじまりだった。

nishiyama22.jpg

「液体民主主義」は間接民主制と直接民主制をデジタルテクノロジーによって止揚する試みだ (photo: CC0 1.0 Julia Reda)

 液体民主主義は、オンラインプラットフォームをつかって有権者の直接的・間接的な政治参加と熟議を可能にする。どのプラットフォームをつかうかによってプロセスの詳細は異なるが、大体のしくみは以下のようなものだ。

 まず、参加者はだれでも平等に法案を起草し、提案することができる。そして、提案された法案は参加者全体に共有され、参加者は自由に草案の改正案や代替案を提出することができる。この点で、液体民主主義はつねにイシュー・ベースで、えらばれた代表者が任期中にほとんどの政策決定をする、間接民主制とは大きく違う。

 次に液体民主主義のユニークなポイントとして、「どの程度意思決定に参加したいか」を参加者自身が自由に決められる、というところがある。参加者は自分で草案を起草したり、その改正案を自分で書くこともできるし、その最終案に賛成か反対か、投票することもできる。もし自分で決められないという場合は、自分の票を誰かに「委任」して自分が信用するひとに自分の票の分を代理で投票してもらうこともできる。さらにおもしろいことに、-そしてここが間接民主制とのもうひとつのおおきな違いだが-票を「委任」されたその人も、自分の票をだれかに委任することができる。

nishiyama33.jpg

液体民主主義における投票の委任モデルの一例。オピニオンリーダーなどは委任される票数が多い有権者となる仕組み(photo: CC-BY @hdready, @pudo, @twitgeridoo)

 プロセスとしては、ほとんどの液体民主主義ソフトウェアは、意思決定のプロセスをいくつかのフェーズに分けることによって、意思決定のなかに熟議を担保しようと試みている。たとえば、ドイツ海賊党によって開発された世界初の液体民主主義ソフトウェア「Liquid Feedback」では、あらゆる意思決定に4つのフェーズを必要とする。

 第一フェーズで、提案された草案はある一定の支持を集めなければならない(○人以上、参加者全体の○%など)。第二フェーズでは、一定の支持を集めたその草案は参加者全員の話し合いによって改訂されたり修正が加えられたりする。話し合いと修正が終わった後の第三フェーズでは草案は凍結し、参加者は自分の票をどのようにつかうか、考える時間が与えられる。第四フェーズではついに投票が行われる。

nishiyama88.jpg

従来型の民主主義のプロセス(左)と、熟議と合意を可能にする液体民主主義のプロセス(右)  (CC0 1.0 Julia Reda)

 これまでの説明を見ればわかるように、「意思決定」は必ずしも投票行動によってのみ行われるのではなく、4つのフェーズを通して草案はたえず変化し、ブラッシュアップされ、合意が形成されていく。この、プロセスを通じた合意形成のダイナミズムが、液体民主主義が「液体(Liquid,「流体」とも訳せる)」と呼ばれる所以なのである

(参照: アイスランド海賊党で今じっさいにつかわれている「オンラインプラットフォームをつかった政策決定プロセス」の詳細な説明はこちらから)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 4
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 9
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 10
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中