最新記事

中国

拡大を続ける中国出版市場。しかし目立つ日本の「不在」

2016年9月1日(木)17時01分
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)

BIBF 2016 ウェブサイトから

<活況を呈する中国市場の出版市場。その拡大は海外コンテンツへの需要拡大を伴っており、世界の出版社にとって、北京はますます重要になっている。しかし、隣国日本の存在感は...>

 北京の国際ブックフェア (23rd, BIBF 2016) は8月24-28日の5日間中国国際展覧センター(新館)で開催された。Publishers Weeklyなどは、成長する出版市場を反映した活況ぶりを伝えている。中国市場の拡大は海外コンテンツへの需要拡大を伴っており、世界の出版社にとって、北京はますます重要になっている。

欧米出版社が期待する中国市場

 メディアの監督官庁である国家新聞出版広電総局などが共催し、国際図書貿易集団有限公司が主催したイベント、国際出版フォーラム(BIPF)は、今年で12回目になるが、ペンギンランダムハウスのマルクス・ドーレCEO、コンデナスト出版(雑誌)のジョナサン・ニューハウス社長、センゲージ・ラーニング(教育)のアレクサンダー・ブロイチ社長ら、世界の大物を集めた。

 やはり拡大する市場への期待は相当に大きい。18歳以下の人口は3.7億人で、ほぼインドと同じだが、「二人っ子政策」への転換や、可処分所得の増加、国家レベルでの読書教育の推進もあり、成長力のある教育市場としては世界最大。欧米メディアを驚かせたのは、外国書籍の小売価格の差が大幅に縮小していることで、為替レートの変化と同時に購買力の増加を示している。

 なお、EPUBのIDPFも、1日イベントとしてInternational Digital Publishing Forum @BIBFを開催した(講演者とプログラムはこちら)。

 PWの記事によれば、輸入/翻訳書籍は、国内で販売される本の2割。うち半分以上は米英からと推定されている。もともと翻訳比率が高い日本でも成長期にはそのくらいの比率はあったから、国家管理の強い中国でのこの数字は、長期的な成長を期待出来るものだ。

 展示会の意味は、伝統的に「トレード」にあり、参加者数よりは出展社数、商談成立とその金額、そして関連イベントの規模と多彩さなどで評価される。日本では展示会で商談が行われることは少なく、短期間に密度の濃いビジネスを期待する海外の出展者は拍子抜けすることになる。中国は、欧米的なテンポと同期しやすい。

 国家管理の色が濃かった出版も、商業出版市場の成長とともに、アクセスしやすいものとなってきた。欧米のメディアがその変貌に驚くのも無理はない。10年前は、規模が小さく、統制が強く、海賊版が多い、といったネガティブな印象が強かったことを思えば、比較的短期間にイメージを変えることに成功したようだ。日本はまだ(海外から見て)開放的な市場空間をつくることに成功していない。

目立つ隣国日本の「不在」

 中国政府は教育分野を中心にコンテンツ輸入の拡大に動いている。しかし、一定以上の規模の国内出版社(580)のうち、海外に窓口を持っていたり、各国の展示会で版権を購入しているのはまだ一握りに過ぎず、北京のフェアは「輸入窓口」の機能が大きい。BIPFの拡大は、内外の期待を反映しているが、登壇者に日本の出版関係者の姿はない。隣国というのは遠国よりも難しいことは多いが、日本のコンテンツへの需要も、翻訳インフラもある中で、あえてこの巨大市場を無視するのは正常な状態ではない。

 BIBFの前の週、日本の大手出版社のトップ(17社20名)が、米国で髙橋礼一郎・在ニューヨーク総領事・大使が主催した日米出版人の晩餐会に出席して、ビッグファイブのトップを含む12人のエグゼクティブと交流を行ったという記事が、PWに掲載されていた (By Jim Milliot, 08/26)。

 会をアレンジした紀伊国屋書店の高井昌史会長は席上、「日本の書籍市場は20年にわたって下落を続けているが、世界で読者を持つことが出来る著者が数多くいる。」と述べて、版権輸出拡大への期待を述べたという。前半は「没落」の当事者として、同業者にして顧客に話すイントロとしては正直に過ぎる気がする。20年の低落はけっして尋常とは思われていない。

 出版人は、手を尽くして中国で売る努力をすべきだ。そうすることが価値を高め、欧米や中南米、アフリカで売ることにもつながる。世界最大の出版輸出大国である英国に見倣うべきだろう。北東アジアは長い出版文化の歴史を共有しており、それは重さにおいて米英の関係とは比較にならない。ソフトパワーに自信を持つなら、中国を重視すべきだ。

○参考記事
Japanese and American Publishing Executives Explore Closer Ties, By Jim Milliot, Pubishers Weekly, 08/26/2016
JBeijing Book Fair: Market Opportunities for Everyone, By Teri Tan, Pubishers Weekly, 08/29/2016

※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。
images.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中