最新記事

マレーシア

18年の怨念を超えて握手 マハティールと仇敵が目指す政権打倒

2016年9月13日(火)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 このNSC法は現在、マレーシアの政府系投資銀行「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」を舞台にした巨額(約2500億円)の汚職容疑で国際社会や米政府から批判を受けているナジブが起死回生を狙った窮余の策として打ち出した自らの権限強化といわれている。

 ナジブはさらにイスラム法の導入に理解を示すことでイスラム勢力を自陣に引き込み、ムヒディン・ヤシ副首相やマハティールの息子、ケダ州知事を解任や辞職に追い込むなど「政敵追い落とし」で閣僚や地方自治体の長をイエスマンで固めるなど政権維持に躍起になっているのが現状だ。

 そこに来て大御所のマハティールからは辞職を勧告され、それを拒否するとマハティールは与党「統一マレー国民組織(UMNO)」を離党して「ナジブ打倒」を掲げる新党を結成、全面対決の姿勢を鮮明にしたのだ。確かに一時に比べマハティールの政治的影響力、発言力は低下している。マハティール自身がそれを肌で感じているからこそ、人気の高いアンワルとの直接会談に裁判所に乗り込み、握手して見せたのだともいえる。そうした演出にはマハティールという今年91歳になった老練の政治家は抜きんでた能力を発揮するのだ。

ナジブ政権の危機感

 政権打倒を掲げるマハティールとナジブ政権野党のPKRを実質率い、今や反ナジブ勢力のシンボルでもあるアンワルとの「18年の隔絶」を超えて実現したこの会談は、事実上は反ナジブ野党勢力のリーダー同士による「政権打倒にむけた共闘」を内外に示す結果になったのはだれの目にも明らかだった。

 ナジブが権力維持に躍起になるのはこのまま議会解散がない場合、次回総選挙が2018年と3年もの時間があるという背景がある。つまり3年間もの長期間台頭する野党勢力を抑え込むために必要な手を着々と打ち、そしてあの手この手を次々と繰り出す必要性を感じているというわけだ。それはまた一種の焦りであり、危機感の裏返しであると野党勢力は指摘する。

 国営通信社のベルナマ通信はマハティール・アンワル会談について与党UMNO副党首の「会談は非常に利己主義的であり、マハティールの行動は必死で死にも狂いにみえる」という言葉を引用して伝え、取るに足らない会談であることを印象付けようとしたこともそれを裏付けているといえるだろう。

イスラム化の真の目的

 マレーシアはナジブのイスラム化が隠れ蓑になってイスラム過激組織やそのメンバーが暗躍する危うい兆候を見せている。今年7月にバングラデシュの首都ダッカで起きた日本人7人も犠牲となった人質テロ事件の犯人2人がマレーシアに留学していたことが判明しているほか中東やバングラデシュ、インドネシアなどから過激な思想を持ったイスラム教徒が流入しているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中