最新記事

インタビュー

世界的にまだ新しい手法「コ・クリエイション」の5つの原則

[カトリーヌ・ラウ]GE シニアUXリサーチャー

2016年8月26日(金)18時07分
WORKSIGHT

<インダストリアル・インターネット(いわば、大きなモノのインターネット)を推し進めるGEが採用している新手法「コ・クリエイション」とは何か。その5つの原則や、形にするための実践法を、GE のシニアUXリサーチャー、カトリーヌ・ラウ氏が語った>

 2016年1月、サービスデザインをテーマとする日本最大規模のカンファレンス「Service Design Japan Conference 2016」が開催された(主催:Service Design Network日本支部)。

 登壇者の1人であるGE シニアUXリサーチャー、カトリーヌ・ラウ氏の講演内容と、その後のメールでの質疑応答に基づき、GEにおけるサービスデザインの取り組みについて紹介する。

※インタビュー前編:GE流インダストリアル・インターネットで、デザインが重要な理由

◇ ◇ ◇

 GEにおいてインダストリアル・インターネットを進めるにあたり、コ・クリエイションの手法を取り入れていることは前編で説明した通りだ。

 今回はコ・クリエイションに関する5つの「原則」と、それぞれを形にするための「実践」、すなわち具体的なメソッドや心構えについて取り上げる。

デザインをリーダーシップのレベルに置くこと

 原則の第1はデザインをリーダーシップのレベルに置くこと。デザイナーやデータ専門家など、デザインに関わる人々にリーダーシップを付与するのだ。

「デザインの手法をビジネスの核の部分に取り入れることで、戦略的な重要課題も適切かつスピーディに解決できるようになります」と、ラウ氏は語る。GEではしばしば顧客とワークショップを行うが、そこでは戦略的な機会を探ったり協働の形を考えたりする。商品の最終的な形を決めることより、大きな問題を解決するソリューションをどのように生み出すかということの方に主眼を置いているのだ。

 この原則の実践にあたって重要なのは、企業言語や既存組織と対立しないようにすることだ。例えば、GEでは組織的にUX(ユーザー体験)の重要性を理解しつつあるが、それはサービスデザインという言葉では認識されていない。そこでラウ氏らデザイナーもUXという言葉を使う。サービスデザインという言葉を一方的に使ったところで、社内の混乱を招くだけだからだ。

 社外に対しても同じことがいえる。コ・クリエイションの目的は戦略的なパートナーシップの元に顧客を巻き込んで新しいソリューションを作ることで、多くの人の協力や理解が欠かせない。したがって、すでにそこにあるものと「戦う」ことは得策ではないのだ。

 GEにおいてUXはエンドユーザーのためのデザインであり、コ・クリエイションとはステークホルダーがデザイナーになるように働きかけることである。より多くの人がデザインに参入できるようにするため、相手の心に響く言葉を使うことが望ましい。言語を制する人が議論を制するとよく言われるが、そうではない。言語をうまく翻訳できる人こそが共通のソリューションへとステークホルダーを導くことができるのである。

【参考記事】インダストリー4.0やIoTが生み出す付加価値とは

エンジニアリング手法のようにコ・クリエイションを組織に導入する

 次の原則は、エンジニアリング手法としてコ・クリエイションを組織に導入することだ。例えばGEも含めた多くの企業でアジャイル開発の手法を採用して高品質のシステムを効率よく作り出しているが、こうしたエンジニアリング的な仕事の形式の1つにコ・クリエイションを取り入れてみるのも一案だろう。

「実践するには、連合の円滑化(federated facilitation)が有効です」とラウ氏は述べる。コ・クリエイションが顧客を対象に社外だけで行われた場合、どれだけ素晴らしいアイデアが生まれたとしても実現できないかもしれない。一方、社内だけでコ・クリエイションをしても、それはそれで顧客との関係が希薄になり、機会損失を招きかねない。

 GEでは社内のチーム同士でコ・クリエイションを行うこともあれば、社内のコ・クリエイションに顧客が参加することもある。内部と外部の境界をあいまいなまま維持するというのは、これまでにない手法といえる。1つの集団で凝り固まらないこと、内部と外部がなめらかにつながってバランスを保つことがコ・クリエイションを成功に導くのだ。

wsRau_2-zu1.gif

内部と外部がなめらかにつながって対話することがコ・クリエイションを成功に導く。(ラウ氏提供の図版を元に作成)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クックFRB理事の弁護団、住宅ローン詐欺疑惑に反論

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、5万円割れ 米株安の流れ

ワールド

国連安保理、トランプ氏のガザ計画支持する米決議案を

ビジネス

米ボーイング、エミレーツから380億ドルの受注 ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中