最新記事

中国

時速100キロで爆走する「老人用ハンドル型電動車椅子」

2016年7月19日(火)17時38分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

Taobao.comより

<メーカーが「自動車ではない」と言い張り、開発・販売し続ける「老人用代走車」。ブラックな魅力が人気で、影響力の強いCCTVの特番に攻撃されても生き残っている。これぞ中国型イノベーション。ここから未来の自動車メーカーが誕生するかもしれない> (写真:中国のネットショッピングサイト「タオバオ」で販売されている老人用代歩車。画像を一部修正しています)

 電動車椅子が時速100キロで道路を爆走していた......しかも4人乗りだった......というか外見はランドローバーそっくりだった......。中国の不思議な「老人用代歩車」の存在は中国型イノベーションとはなにかを率直に物語っている。

 中国中央電視台(CCTV)は2014年3月15日の世界消費者権利デーの特番で、「老人用代歩車」問題を取り上げた。老人用代歩車とは読んで字のごとく「歩く代わりに乗る車」の意。英語でいう「Mobility Scooter」、日本語で言う「シニアカー」「ハンドル型電動車椅子」を指す中国語だった、もともとは。

 ところがメーカーは「これは老人の足代わりのツールでして。自動車ではございません」と言い張りつつ、次々と大型化、高速化した電気自動車を開発。「時速100キロで走る4人乗り電動車椅子(自称)」という珍品が次々と販売された。こうした代歩車を作るメーカーは、大半が町工場レベルの中小企業だ。普通の自動車とは異なり、電気自動車の開発・製造に必要な技術レベルは低いためだという。大手になると年間5000台を製造しているのだとか。統計がないため生産台数は不明だが、メーカーの数は無数にあるため年数万台レベルで製造されている可能性が高い。

免許も保険も不要の「走る凶器」

 また「観光車」というカテゴリーもある。もともとは「公園や大学キャンパス内で使うミニバス」のカテゴリーだが、明らかに乗用車にしか見えないものを観光車だと言い張って販売している。驚くべきは「内燃エンジン型観光車」の存在だ。実は大手中国メーカー製品のエンブレムだけを取り替えたという正真正銘の一般自動車だが、観光車だと強弁して販売する行為が確認された。

 代歩車も観光車も一般自動車ではないので、運転免許もナンバープレートも自動車保険も不要。まさに"走る凶器"だ。北京市当局によると、2011年から2013年10月までに北京市だけで代歩車関連の事故が757件発生し、136人が死亡したという。

 この代歩車について、自動車レビューサイト「易車体験」は試乗体験動画を公開しているのだが、これが爆笑ものだ。2万元(約31万円)するというその車は、軽自動車を一回り小さくしたような外見だが明らかに自動車で、「シニアカー」「ハンドル型電動車椅子」とはほど遠い外見をしている。

 走らせてみると、ハンドルはねじ曲がった角度で固定されているわ、サスペンションなしですさまじくガタガタするわ、バッテリー残量表示はいい加減だわ、代歩車用タイヤは修理店にないためにパンクすると修理しようがないわと問題が続出。あまりのすさまじさにコメンテーターは怒るどころか、「笑える車」と結論づけていた。ネットユーザーのコメントも「2万元でこんなゴミは要らないだろ」との声が圧倒的だ。

易車体験のレビュー
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、防空強化でG7の協力要請 NATOが取

ビジネス

米指数ファンドからブラックリスト中国企業に多額資金

ワールド

イスラエルの長期格付け、「A+」に引き下げ=S&P

ビジネス

仏ロレアル、第1四半期売上高は9.4%増 予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中