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熊本地震「自主避難所は不要? 危ない?」現地ボランティアに聞いた

2016年6月14日(火)11時58分
高城 武(ライター)

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4月25日、古城堀端公園のあずまやにて、運営者と自主避難者。右端が宮崎睦さん。その隣でしゃがんでいるのが高口健也さん。左端でしゃがんでいるのが井上憲昭さん。左奥から2番目が末次慎一郎さん。以上4人が自主避難所の運営を担った。写真提供:高口健也

――指定避難所と比べると、自主避難所にはリスクが大きいと実感されたわけですね。そうすると避難者を指定避難所に集約したいという行政の方針にも賛同されますか?

 指定避難所がいいのか、自主避難所がいいのかという議論はある意味ナンセンスです。というのも、指定避難所に行けないから自主避難しているだけだからです。

 よく報道されているようなプライバシーの問題もありますが、それだけではありません。小さなお子さんがいて避難所に行けば迷惑がかかる、応急危険度判定で家に損傷なしと判断されてもやはり不安で家では寝られない、避難所が遠くて不便など、理由はいろいろです。たとえ指定避難所のほうが安全で支援の効率が上がるといっても、そこからこぼれ落ちる人が出ることは事実です。

――自主避難所にはリスクがある、しかし指定避難所には行けない人がいる。この状況でどんな解決策が考えられるでしょうか?

 私も100%の正解を持っているわけではないのですが、やはり行政が主体にならなければ安全性は確保できないと思います。支援から取りこぼれる人が減るよう、より柔軟な手法に改善することが重要です。先ほどお話しした自衛隊の話が示唆的ではないでしょうか。行政が自主避難所を把握できないと混乱しているなかでも、自衛隊は自力で自主避難所を見つけて支援してくれたわけです。

 古城堀端公園の運営にたずさわっている時、こんな話を聞きました。熊本市の近隣の地域では、夜になるとコンビニやスーパーの駐車場が満車になるというんです。市外に移動してまで車中泊をしている人も多いんですね。そういうニーズがあるなら廃校グラウンドなどを開放して車中泊者のためのカーキャンプ場を作ればいいのではと思い、熊本市や近隣の市に提案しましたが、やはり自治体を越えての連携はなかなか難しいようで実現しませんでした。

 お役所仕事の弊害はボランティアにもありました。ゴールデンウィークの人手がある時期には仕事が足りず1日の仕事が1時間しかなかったなんて人もいましたが、休みが終わると途端に人手不足で慌てだすとかですね。

 それに印象的だったエピソードがあります。重たいテーブルを動かしたいので手伝って欲しいと自主避難所にやってきた人がいたんですよ。5分で終わる仕事なんですが、ボランティアセンターに手伝いを依頼したら2週間後に派遣すると言われたんだとか。また、あるボランティア学生から「高口さんは災害ボランティアの登録をしてないんですか? それじゃモグリじゃないですか!」なんて言われたこともありました(笑)。

 こうした縦割り行政を打破してスムースな支援を実現すれば、指定避難所の利便性も大きく向上するはずです。行政が被災者のニーズにあわせた支援を提供できれば、自主避難所の数も自然と減少するでしょう。自主避難所や車中泊の問題がクローズアップされた熊本地震の教訓を熊本、そして今後起こりうる大地震の支援に役立てて欲しいと願っています。

[話を聞いた人]
高口健也
カメラマン、ライター、Webデザイナー。1981年、鳥取県生まれ。中卒。東京、福岡在住。水島ハン名義でも活動し、日本、アジアの地方都市を舞台に市井の人々の暮らしを独自の視点で追い続けている。個人事業サイト「nairobia.net」。ツイッターアカウントは@mizushima06

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