最新記事

高森郁哉

グーグル、人工知能の暴走を阻止する「非常ボタン」を開発中

2016年6月10日(金)17時10分
高森郁哉

wikicommons

<人工知能(AI)が人類の敵になることへの懸念を表明する著名人が増えている。こうした懸念に応え、グーグルは、AIが人類に反逆しそうな場合に人為的な操作で回避する「非常ボタン」のような仕組みを開発中だと発表した>

 数年前から、人工知能(AI)が人類の敵になることへの懸念を表明する著名人が増えている。理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士は、自律型兵器を禁止するよう公開書簡で訴えたが、スウェーデンの哲学者ニック・ボストロム氏は著書「Superintelligence」の中で、AIが知性の点で人類を超えるとき、人類は絶滅の脅威にさらされる可能性があると論じた。

【参考記事】「スーパー人工知能」の出現に備えよ-オックスフォード大学ボストロム教授

 電気自動車のテスラ・モーターズやロケット開発のスペースXで知られる起業家イーロン・マスク氏も、ボストロム氏の著書に言及して「AIは核よりも危険になる可能性がある」とツイートした。


 こうした懸念に応え、グーグルのAI部門が今月、AIが人類に反逆しそうな場合に人為的な操作で回避する「非常ボタン」のような仕組みを開発中だと発表。米ニューズウィークなどが報じている。

AIが「人類の敵」になるのを防ぐアルゴリズム

 グーグルから2014年に買収されたディープマインド社が公開したのは、「Safely Interruptible Agents」(安全に中断できるエージェント)と題した論文。この中で同社は、自律学習型のエージェント(AI)が有害な振る舞いをしそうになったとき、人間のオペレーターが「big red button」(非常ボタン)を押すことで、有害な挙動が継続されるのを阻止して、安全な状態に導く仕組みを開発中だと述べている。

 論文はさらに、将来的にAIが非常ボタンを無効化する方法を学習しないよう、手動による中断操作を偽装して、AIが自らの判断で挙動を変更したように「思い込ませる」仕組みについても説明している。

 同チームが定義する「安全な中断」のポリシーに基づき、既存のAIエージェントを調べたところ、「Q-learning」などはすでに安全な中断が可能な状態で、「Sarsa」などは容易にポリシーを追加できることがわかったという。

 AIが人類に反逆する未来は、『2001年宇宙の旅』や『ターミネーター』、最近では『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』など多くのSF映画で描かれてきた。こうしたモチーフが繰り返されるのは、科学技術の進歩が文明の発展を担ってきた一方で、ハイテクが雇用を奪い、核兵器などの大量破壊兵器が人類を脅かしている現実の懸念も反映してのことだろう。
 
 それに加え、創造主が創造した「もの」に反逆されるという、ギリシャ神話以来の普遍的なテーマである「父殺し」の変形と考えるなら、SF作品での言及は19世紀初頭のメアリー・シェリーによる小説『フランケンシュタイン』にまでさかのぼることができる。6月11日に日本公開となるSFスリラー映画『エクス・マキナ』にも、そうした要素が洗練された形で継承されている。

【参考記事】アンドロイド美女に深い不安を託して

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JAL、今期の純利益7.4%増の見通し 市場予想上

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中