最新記事

アメリカ社会

ファイザーが死刑執行用の薬物の販売を停止

死刑と関わりたくない製薬会社の増加で、州当局の死刑執行は既にスローダウンしているが

2016年5月17日(火)20時35分
ウィンストン・ロス

生きる? アメリカ人の心の中でも揺らぎ始めた死刑制度 Stephen Lam-REUTERS

 米製薬大手のファイザーは先週末、「死刑執行に用いる薬物は販売しない」と発表した。直ちに影響を受けるのは、死刑を維持しているアメリカの32州。薬物注射による死刑執行に必要な薬物の調達が難しくなる。

 同社は声明で「ファイザーは患者の命と健康のために製品を作っており、それが死刑の執行に使用されることに強く抗議する」と言う。

 今後ファイザーは死刑執行に用いられてきた薬物の流通を規制する。対象となるのは臭化パンクロニウム、塩化カリウム、プロポフォール、ミダゾラム、ヒドロモルフォン、臭化ロクロニウム、臭化べクロニウムの7製品。死刑の執行に使用する目的で転売しないことを条件に、限られた業者にだけ販売する。流通経路を監視して、コンプライアンス違反があれば発覚次第、厳正に対処する方針だ。

 ファイザーの決定で、州による死刑執行がより難しくなるのは間違いない。だが実際に死刑執行の数や頻度にまで影響を及ぼすことができるかどうかは、州当局の対応にかかっている。近年では、ファイザー以外にも多数の製薬会社が自社製品を死刑に使用させない動きを加速させており、州政府が薬物を入手するための選択肢は狭まる一方だ。

 英非営利人権団体「リプリーブ(Reprieve)」で死刑廃止チームを統括するマヤ・フォアは本誌の取材に対し、「巨大な市場シェアを持つ世界第2の製薬会社による今回の決断は、重要な意味を持つ」と述べ、ファイザーの発表を歓迎した。

ブランド価値に目覚めた製薬会社

 製薬会社によるこうした動きには、今後のビジネスへの影響を配慮した側面もある。

 米非営利組織の死刑情報センターのロバート・ダンハム事務局長は次のように指摘する。「人々の命を救う薬には、特別のブランド価値がある。その薬が人命を奪う死刑執行のために用いられてはせっかくのブランド価値が損なわれ、ビジネスに大きな打撃となる」

 各州は死刑執行に使用する薬物の確保に必死だ。「死刑を維持する州は薬物の購入が困難な状況が続いており、全く不可能となった州もある」と、とダンハムは言う。

 新たな入手ルートを求める動きも加速している。製薬会社の方針に従わない業者から「転売」を受けたり、用途を偽って購入する州もある。さらには傘下の調剤薬局に薬物を調合させて、死刑用の薬物不足を補う州も増えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱UFJ、米オープンAIと戦略的連携 グループの

ワールド

ケネディ元米大統領の孫、下院選出馬へ=米紙

ビジネス

GM、部品メーカーに供給網の「脱中国」働きかけ 生

ビジネス

日経平均は反発、景気敏感株がしっかり TOPIX最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中