最新記事

コンピュータを印刷する時代がやって来る?

ナノ結晶のインクで、トランジスタを印刷することに成功

2016年4月12日(火)16時40分
山路達也

完全にインクだけでできたトランジスタ プラスチックの基板の上にナノ結晶インクでトランジスタの回路を作った。(image:ペンシルベニア大学)

 スマホにせよパソコンにせよ、エレクトロニクス製品といえば、硬いものと相場が決まっている。けれど、そんな常識はこれから何年かすれば崩れていくことになるだろう。柔軟で折り曲げられる、そういうエレクトロニクス製品を実現するための研究が世界各地で行われており、この潮流はフレキシブル・エレクトロニクスと呼ばれる。例えば、東京大学大学院の染谷研究室では、薄くてしなやかな体温計を印刷技術によって作ることに成功している。

 柔軟なエレクトロニクス製品を実現できれば、体に貼り付けたり、衣服に組み込んだりと、これまでにない応用が可能になる。

ナノ結晶のインクで、トランジスタを印刷することに成功

 2016年4月に発表された、ペンシルベニア大学のCherie Kagan教授らの研究成果は、フレキシブル・エレクトロニクスの可能性をさらに広げることになりそうだ。

 同研究チームが作成したのは、「完全にインクだけでできたトランジスタ」である。トランジスタは、信号の増幅や、回路をオン・オフするスイッチの機能を持った、あらゆるエレクトロニクス製品に不可欠の部品だ。コンピュータのCPUも膨大な数のトランジスタで構成されている。

 まず、研究チームは、ナノスケールの粒子を液体に溶かし込み、「インク」を作った。インクは全部で4種類。銀でできた伝導体、酸化アルミニウムでできた絶縁体、セレン化カドミウムの半導体、そして銀とインジウムを混ぜたドーパント(半導体に添加して特性をコントロールするための不純物)と、トランジスタに必要な要素をすべてインクとして用意したのである。

Figure 1 No Labels.jpg

ナノスケールの粒子を液体に溶かし込み、「インク」を作った。

 続いて、プラスチックの基板の上にナノ結晶インクでトランジスタの回路を作っていく。半導体製造プロセスで使われているフォトリソグラフィ法を使って、銀のナノ結晶インクで回路パターンを描き、酸化アルミニウム、セレン化カドミウムのインクを重ね、銀とインジウムのインクで回路パターンを描く。最後に熱を加えると、インジウムのドーパントが溶け出して半導体として機能するようになる。ナノ結晶インクを使った製造プロセスは、真空を使う通常の半導体製造プロセスよりも低い温度で動作する。そのため、同一基板上に複数のトランジスタを同時に作成することもできるという。

 現段階では従来と同じ半導体製造プロセスを使っているが、研究チームでは将来的に印刷技術によってトランジスタを作れると考えている。

 何年かすれば、私たちが着る衣服にも当たり前のようにトランジスタが印刷されているかもしれない。ヘルスチェック機能を備えたIoTアンダーウェアや、デザインを自由に変化させられるTシャツも登場してきたりするのだろうか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本の不動産大手、インド進出活発化 賃料上昇や建設

ワールド

G20は経済成長重視に回帰、来年議長国の米が方針

ワールド

英利下げ支持には雇用と消費の軟化必要=グリーン中銀

ワールド

「麻薬運搬船」への複数回攻撃はヘグセス長官が承認=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中