最新記事

ブラジル

リオ五輪を控え軍警察の暴力がエスカレート

警察による市民の殺害が「急増」していると人権団体が告発

2016年4月28日(木)16時30分
ルーシー・ウェストコット

カウントダウン 開幕まであと100日を切ったが、治安など問題は山積 Ricardo Moraes--Reuters

 オリンピック開幕まであと100日を切ったブラジルのリオデジャネイロで、4月に入って11人の市民が警察に殺されたことが明らかになった。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが今週発表した報告書によると、リオ五輪の開催を控え、警察による殺害が「急増」し、リオ市内の貧困地域では不安が広がっている。リオデジャネイロの警察はただでさえ荒っぽい。昨年は市内だけで307人、サッカーのワールドカップがブラジルで開催された14年には、リオデジャネイロ州全域で580人が警察に殺されたと、報告書は告発している。

 ブラジル人の多くはオリンピックを前に警察を「極度に恐れて暮らしている」と、報告書はいう。警察の暴力にさらされるのは、主としてファベーラ(スラム)など低所得地域に住む若い黒人男性だ。ブラジル政府はリオ南東部のリゾート地コパカバーナやマラカナン・スタジアム周辺の路上でホームレスの子供たちの強制排除も進めている。

【参考記事】リオのスラムに群がる貧困ツアーの功罪

 4月に警察に殺された犠牲者の1人は5歳の少年で、リオ北部のマジェ地区で軍警察が行った麻薬摘発作戦に巻き込まれて死亡した。この作戦では他にも2人が巻き添えになって負傷。4月4日には市内北部のアカリ地区のスラムで5人が警察に殺され、同じ日にマンギーニョス地区のスラムでも1人が警察に殺害された。

 アムネスティは「警察による殺害の増加をオリンピックの準備に直接的に結びつけることはできない」としているが、数字を見れば、五輪開催を控えて警察が免責特権をよいことに暴力的な取締りに走っているのは明らかだ。今年1~3月にはスラムでの警察による殺害が昨年同期と比べ10%増加したと、アムネスティは報告している。

デモ参加者は「公共の敵」

「今のところ警察による殺害はほとんど捜査されておらず、警察官の厳格な訓練や『より殺傷性の低い』武器の使用を定めた明確なガイドラインの策定は実施されていない。当局は今でもデモ参加者を『公共の敵』とみなしている」と、アムネスティ・ブラジルのアティラ・ロケ代表は声明で指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中