最新記事

フィリピン

カナダ人を斬首したアジアの過激派アブサヤフとは

ISISともつながりを持ち、カナダ人ら4人を拉致して巨額の身代金を要求するフィリピンのイスラム過激派組織は何が目的なのか

2016年4月27日(水)19時00分
ジャック・ムーア

最悪の結果 自国民の首が発見され、怒りの記者会見を開いたカナダのトゥルドー首相(4月25日) NEWSWEEK

 フィリピン南部スールー州の町ジョロで25日、切断されたカナダ人男性の頭部がビニール袋に入れられ、路上に捨てられているのが発見された。

 昨年9月にフィリピンのイスラム過激派組織アブサヤフが、同国南部にあるサマール島のホテルから拉致した68歳のジョン・リズデルだ。

 25日の午後3時(現地時間)までに約800万ドルの身代金を支払わなければ斬首すると、アブサヤフはカナダ政府を脅迫していた。そして迎えた最悪の結果だ。カナダのジャスティン・トゥルドー首相は同日、記者会見を開き、「血も涙もない殺人行為」と非難、アブサヤフを「追跡していく」と表明した。

【参考記事】「難民受け入れます(ただし独身男性を除く)」の波紋

 リズデルの他にも3人がサマール島のホテルから拉致されており、アブサヤフは今も人質に取っている。カナダ人のロバート・ホールと、ノルウェー人男性、フィリピン人女性だ。彼らの命が助かるか、懸念が強まっている。

 しかし、そもそもこのアブサヤフとは、一体どんな組織で、何が目的なのだろうか。

アブサヤフの起源は?

 アブサヤフは、一体となって活動している1つの組織ではない。フィリピン各地で「アブサヤフ」の御旗の下に、いくつかのグループ(セル)が活動しているのだ。アブサヤフは「刀鍛冶の父」といった意味。フィリピン南部のミンダナオ島で反政府活動をしていた急進派イスラム組織、モロ民族解放戦線(MNLF)から1991年に分派し、アブドラジャク・ジャンジャラニが設立した。

 フィリピン国民や当局への暴力行為で名を轟かせたが、恐喝や麻薬取引などの犯罪にも深く関わっている。フィリピン史上最悪のテロである2004年の「スーパーフェリー14」爆破事件もアブサヤフの仕業で、116人が死亡した。組織の構成員は1000人以上いたが、2012年には200~300人程度にまで減っている。

 サウジアラビアやリビア、シリアで学んだジャンジャラニは、1998年に警察との銃撃戦で死亡し、その後は彼のきょうだいであるカダフィ・ジャンジャラニが組織の実権を握った。カダフィの指揮の下、イデオロギーではなく金銭を目的とする誘拐を多数実行。そのカダフィも2006年9月、銃撃戦で死亡した。

 アブサヤフの現在の指導者はイスニロン・ハピロンという男で、2001年にアメリカ人3人を拉致したことで、アメリカの国際指名手配リストに載っており、その首には500万ドルの懸賞金が掛けられている。

【参考記事】フィリピン過激派組織がISISと共闘宣言

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、ダウ最高値更新 ハイテク株

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで一時155円台、9カ月ぶ

ワールド

米国債入札を段階的に調整、安定維持図る=財務長官

ワールド

中国、フェンタニル前駆体の阻止巡り合意=米FBI長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中