最新記事

テロ組織

フィリピン過激派組織がISISと共闘宣言

アブサヤフの狙いはISISの知名度を利用して人質の身代金を吊り上げること

2014年10月2日(木)19時02分
ミシェル・フロルクルス

アジアのISIS? フィリピンで数多くの爆弾テロや誘拐事件を起こしているアブサヤフ Philippine National Red Cross-Reuters TV

 フィリピンの武装集団アブサヤフが先週、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)との共闘を宣言。アメリカ主導の対ISIS連合を支持するドイツ政府に対し、支持を撤回しなければドイツ人の人質2人のうち1人を殺害すると警告した。同時に2人の身代金として約560万ドルを要求している。

 フィリピン南部のスールー諸島を拠点とするアブサヤフは、フィリピンからの分離独立闘争を40年以上続けるイスラム過激派組織の1つ。これまでに爆弾テロ、フィリピン人と外国人の誘拐、暗殺など、数多くの流血事件を起こしてきた。

 最高幹部のイスニロン・ハピロンらは今夏に公開したビデオで、カリフ(最高権威者)を自称するISISの指導者アブ・バクル・アル・バグダディに忠誠を誓うと表明した。「われわれはどんなときも彼に従い、他の誰よりも彼を尊重する」

 ただしロンドン大学東洋アフリカ学院の比較政治学者マイケル・ビューラーは、ISISの勢力が東南アジアに拡大する可能性は低いと指摘する。「ISISがフィリピンに拠点を築く危険性があるとは思わない」

 インドネシアのジュマー・イスラミア(JI)やアブサヤフのような東南アジアのイスラム過激派は、自己宣伝のためにISISを利用しているだけだと、ビューラーは言う。「ある過激派組織が国際的な注目を集めるたびに、彼らはその組織に忠誠を誓い、宣伝に使おうとする」

 地元メディアの報道によれば、フィリピン陸軍西部ミンダナオ司令部のルスティコ・ゲレロ司令官は、アブサヤフが注目を集めるためによく使う戦術だと受け止めている。「彼らは国際的な注目を集めるISISを利用して、人質の身代金をつり上げようとしている。彼らは狭い地域レベルの目的のために活動する狭い地域のグループだ。(ISISのような)国際的組織になる兆候は見られない」

 アブサヤフは長年、国際テロ組織のアルカイダも支持しており、一部の作戦では資金援助を受けてきたとされる。それでも勢力はなかなか拡大しなかった。

「このグループの力の源泉は、同じ経済社会的階層に属する親族間の婚姻を通じた密接な人的結び付きにある」と、ビューラーは言う。「こういう構造の組織は大きくなりにくい。実際、人数は増えていない」

[2014年10月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中