最新記事

タイ

タイを侵食する仏教過激派の思想

2016年4月22日(金)15時50分
アビー・サイフ、リン・ジレヌワト

 タイでこうした過激思想が台頭した背景には、14年の軍事クーデター以降の経済の不振と社会の不満がある。「タイの仏教界では反イスラム感情が強まっている」と、国際軍事情報企業IHSジェーンズのアナリスト、アンソニー・デービスは指摘する。「ごく一部の過激派だけではなく、主流派の間にも広がりつつある」

仏教界からも懸念の声が

「イスラム教徒によるタイへの侵略を懸念している」と言うのは、仏教系のマハーチュラロンコーンラージャビドゥヤラヤ大学教授で「仏教国教化推進委員会」の会長を務めるバンジョブ・バンナルジだ。「われわれはイスラム教徒にひどく脅かされている。私の見るところ、イスラムは危険な宗教だ」

 タイの人口の約94%は仏教徒で、イスラム教徒は4%にすぎない。それでもバンジョブは、タイをイスラム化しようとする陰謀があると主張する。

 イスラム系少数民族ロヒンギャやバングラデシュからの密入国者の存在がその証拠だと、バンジョブは言う。「彼らはタイのイスラム教徒人口を増やそうとしている」。ただ、ミャンマーやバングラデシュから多数のイスラム教徒がタイに逃げ込んでいるのは事実だが、それは多くの場合、密航業者によって私設「難民キャンプ」に送り込まれ、閉じ込められているからだ。

【参考記事】なぜバンコク爆発事件でウイグル族強制送還報復説が浮上しているのか

 アピチャートのことを知っているという深南部の学生たちは不安を口にする。「宗教紛争が発生して、仏教徒とイスラム教徒の殺し合いが起きることを心配している」と、パッタニ県で宗教を学ぶ25歳の学生は言った。

 仏教関係者の間にもアピチャートらへの懸念が広がっている。「仏教徒を名乗ってはいるものの、彼らは恐ろしい連中だ」と、仏教学者のスラク・シバラクサは言う。「(アピチャートは)僧侶を辞め、仏教徒であることもやめるべきだ。仏の教えは非暴力、友愛、哀れみの心だ。仏教をカルト化し、ナショナリズムや民族主義と結び付けるのは危険だ」

 政府と仏教界の一部がアピチャートの言動に対し、非難の声を上げているのは心強い。それでも過激な主張は間違いなく人々の間に広まっている。

 フェイスブックやツイッター、パンティップ(タイ最大のネット掲示板)などのソーシャルメディアでは、仏教徒が集まり「イスラム教徒問題」を議論している。「南部3県の過激派イスラム教徒に反対する」フェイスブックページには、4000人前後が「いいね!」を付けた。

 アピチャートは、タイ全土の仏教徒が自分の言葉を真剣に受け止めていると語る。次は何をするのかと質問すると、落ち着いた声で答えたが、通訳は英語に訳すのをややためらった。

「次の計画は、火炎瓶を作ることだ。私だけでなく、国中の仏教徒が作る。もちろん、どこかに投げるためだが、それがどこかは誰も知らない」

[2016年4月26日号掲載]

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

※次号は9/18(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 3

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本との関わりは?

  • 4

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 5

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 6

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    香港デモはリーダー不在、雨傘革命の彼らも影響力は…

  • 9

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 10

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 7

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 8

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 9

    韓国男子、性との遭遇 日本のAVから性教育での仏「過…

  • 10

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月