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熊本地震への米海兵隊オスプレイ派遣、その狙いは?

2016年4月21日(木)11時46分
関 賢太郎(航空軍事評論家)

 その答えは、単純に「オスプレイ」がアメリカ海兵隊の主力輸送機であるからという理由にほかなりません。「オスプレイ」は現在、普天間基地に2個飛行隊およそ24機が常駐しており、在日米軍が運用する航空機のなかで最も数が多い機種のひとつです。もし仮に「オスプレイ」の前任機であったCH-46「シーナイト」ヘリコプターが現在も海兵隊に配備され続けていたとしたならば、「シーナイト」が派遣されていたに違いありません。実際、「シーナイト」は東日本大震災における「トモダチ作戦」へ投入されました。

 今回の航空輸送支援において、「オスプレイ」特有の性能を最大限活かす状況はほとんどありませんが、ほかのヘリコプターと同じように使える「オスプレイ」は輸送任務に十分貢献できるでしょう。

安全面の懸念は?

 一部において、「オスプレイ」は垂直離着陸を行う際に発生する「ダウンウォッシュ(吹き降ろしの風)」の強さから、災害救助には不向きではないのかという懸念の声もあがっています。「オスプレイ」が比較的ダウンウォッシュの強い機体であることは事実であり、2015年4月のネパール地震に派遣された機体は小屋を吹き飛ばしてしまいました。

 しかしこれは「オスプレイ」特有の問題ではなく、自衛隊も保有するCH-47「チヌーク」など大型のヘリコプター全般にいえる弱点です。「オスプレイ」はある意味で政治的シンボルと化してしまっているため、小屋を吹き飛ばしたことがことさら欠陥のように繰り返し喧伝されていますが、ダウンウォッシュで地上の構造物を吹き飛ばした事例はそれほど珍しいものではなく、過去、自衛隊のヘリコプターにおいても発生しています。

 ダウンウォッシュ対策はそれほど難しい問題ではありません。学校や駐車場、または空き地など、ある程度の面積が確保できる場所へ着陸が可能な場合の輸送は「オスプレイ」を優先的に割り当て、狭い場所への着陸を余儀なくされる場所へはUH-60J「ブラックホーク」など別の機種を用いることで簡単に解決します。

 以上のように、「オスプレイ」はほかのヘリコプターとほとんど同じように活動することとなります。「オスプレイ」が輸送任務にあたることに対して、過度に不安視する必要は全くありません。


[執筆者]
関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

※当記事は乗りものニュースからの転載です。

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