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「電子タトゥー」は究極のウエアラブル

計測装置を肌に貼り付けてスマホにデータを転送するバイオウエアラブルの時代がやって来る

2016年3月2日(水)17時00分
ジェシカ・ファーガ(ヘルス担当)

試作モデル 現在は「手作業」で回路を作るが、市販モデルはシール式の即席タトゥーのように手軽なものになりそう CHAOTIC MOON

 フィットビットやアップルウオッチなどのウエアラブル機器は、生活の改善がコンセプトの製品。個人データの取得と共有によって、ダイエットやフィットネス、睡眠の質の向上などに役立つというのが売りだ。

 ただし、この種の機器はユーザーが毎日忘れずに身に着けていないと、宝の持ち腐れになる。デジタル・コンサルティング会社エンデバー・パートナーズの調査によると、データ収集できる機器を購入した人の50%は途中で使用をやめている。

【参考記事】グーグルの「スマート・ジーンズ」は使えるか

 テキサス州オースティンの新興企業カオティックムーン・スタジオは、電子タトゥーの「テック・タッツ」でこの問題を解決したいと考えている。

 電子タトゥーは、複数の小型部品を通電性のある特殊ペイントでつなぎ、皮膚上に小さな電子回路を作るというもの。「バイオウエアラブル」と呼ばれるこの回路で心拍数や体温などのデータを収集・蓄積し、スマートフォンのアプリに転送できる。

手首が決済カードに

 現在の試作品は、「手作業」で回路を作る必要がある。まず、特殊インクをブラシで肌に塗り、そこにピンセットを使って小型部品を固定する。カオティックムーンは、市販モデルはシール式の即席タトゥーのように手軽に貼り付けられるものにしたいと考えている。

「今は医療分野での利用を想定している」と、ハードウエア担当のエリック・シュナイダーは言う。シュナイダーのグループは、手術後数日~数週間の患者の脈拍や呼吸、体温などを信頼性の高い方法で測定したい医師の役に立つと考えている。

【参考記事】ウエアラブルは何のための存在か

 テック・タッツは予防治療の分野でも活躍が期待されている。「これなら検査のために医師のところへ行く必要はない。年に1度、体に貼るだけで必要な検査をすべて行い、データを医師に送信できる」と、シュナイダーは言う。

 電子タトゥーには、決済手段をもっと安全で簡単なものに変える可能性もある。例えば、スーパーのレジで財布を出す代わりに、手首をタップするだけで支払いが完了するようになるかもしれない。遊園地や映画館の入場時にタトゥーをスキャナーで読み取るチケットレスシステムの開発も考えられる。

 カオティックムーンは、クールで未来的なイメージもセールスポイントになると期待している。同社では、ユーザーの動作に合わせてアニメーションが動くタイプの試作品も製作済み。SF映画で描かれた未来に、現実がまた1歩近づきそうだ。

[2016年3月 1日号掲載]

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