最新記事

スポーツ

日本の国技・相撲が狭量な国威発揚と無縁な理由

草原の民が生んで海の民が育てたスポーツは、世界に誇るグローバリゼーションの手本となった

2016年2月9日(火)17時50分
楊海英(本誌コラムニスト)

グローバルな伝統 靖国神社の奉納相撲で日本人力士と対戦するエジプト出身の大砂嵐(写真右) Thomas Peter-REUTERS

 ロシアの陸上連盟のように、世界のスポーツ界には薬物に汚染されているところが多いと言われて久しい。選手たちは常に「国家の栄誉」を背負わされているし、巨大な経済的な利益も付きまとっているから、ドーピングに走る。

 こうした暗雲を吹き飛ばす快挙が日本で起きた。その舞台は日本人が「国技」と呼び、深く愛されている相撲。一時は暴行死や賭博などの不祥事に苦しんだが、今ではフェアでクリーンな競技として人気を博し、世界の注目を浴びている。その担い手たちも既に国際化して長い。

 先月24日に琴奨菊が今年最初の賜杯を手にしたことで、10年ぶりに日本出身の力士が優勝となった。過去10年間に優勝の座を占めてきたのはモンゴル人とブルガリア人、そしてエストニア人。優勝こそ実現しなかったものの、ロシア人とエジプト人の奮戦も常に話題に上る。20年前には若乃花と貴乃花という日本人力士が国民的なヒーローになっていたが、彼らと互角に戦っていたのはハワイ出身の力士たちだった。

【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗

 各国からの力士たちは流暢な日本語を操り、最も日本的な精神を演じて、相撲を一気に国際舞台に押し上げるのに成功した。国際化したのは力士だけではない。観客席にも終戦直後のプロレスのようなパフォーマンスを喜ぶ人はもはやいなくなった。レスラーの力道山(彼のルーツは大日本帝国の植民地だった朝鮮半島にあるが)が白人を投げ飛ばして、「日米代理戦争」ゲームで勝つ――というような演出だ。

日本は文明の吹きだまり

 相撲の起源はユーラシアにあると言われている。紀元前から活躍していたスキタイという遊牧民が愛用していた青銅器には既に力士の取組をかたどった紋様があった。その後、10世紀にはヨーロッパまで名をとどろかせていた遊牧民契丹(キタイ)人の格闘技が日本に伝わって、相撲の原型になった。広大な草原で展開する競技を古代の日本人は限られた小さな土俵に集約することで洗練化し、格闘技を神前で演じて奉納する儀式化にも成功した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

6月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比3%

ビジネス

7月貿易収支は1175億円の赤字=財務省(ロイター

ワールド

EXCLUSIVE-米政権がTikTokアカウント

ワールド

中国の若年失業率、7月は17.8%に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中