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人権問題

背景に中国国内における江沢民告訴――中国で入国拒否されたミス・カナダ

2015年12月21日(月)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

人権活動が仇に? 中国に入国拒否されたミス・ワールドのカナダ代表、アナスタシア・リン Tyrone Siu-REUTERS

 中国海南島で開かれたミス・ワールド世界大会に出場しようとしたカナダ代表リンさんが入国を拒否された。その背景には今年5月に改正された行政訴訟法と、それに基づいて中国国内で告訴された江沢民の問題がある。

入国拒否されたミス・カナダのアナスタシア・リン

 中国系カナダ人のアナスタシア・リンさんは、12月19日に中国の海南島三亜市で開催されるミス・ワールド世界大会に参加するため中国に入国しようとした。ところが駐カナダの中国大使館はリンさんのビザを発給することを拒否した。そこで香港経由で中国入国を試みるため中国政府の特別行政区で入国要件が異なる香港に行った。それでも中国大陸への入国は拒否されてしまった。

 理由は、彼女が中国における人権問題に関して活動しているからだ。

 中国出身のリンさんは13歳のとき、父親と離婚した母親とともにカナダへ移住。トロント大学で演劇を学び、在学中から中国の人権問題をあつかう映画やテレビ番組に出演してきた。カナダ映画『最前線(原題:The Bleeding Edge)』で、リンさんは収監される法輪功学習者を演じている。今年7月には米議会の公聴会で、法輪功学習者に対する中国政府による迫害や臓器狩りの実態について証言したこともある。

 そこで彼女は香港で記者会見を開催し、「拷問で大半の歯を失った人権弁護士・高智晟氏が歯医者にさえいけないのはなぜか。臓器移植ドナーと死刑執行の数を合わせても数万件の移植手術件数に満たないのはなぜか。自国民に検閲のない情報を見ることを許さないのはなぜか。中国政府に聞きたい」(「大紀元」)など、中国の人権問題と言論弾圧に関心を向けるように訴えた。

法輪功学習者による江沢民告訴と新「行政訴訟法」

 昨年11月1日、第12回全国人民代表大会常務委員会第11次会議で決議された「中華人民共和国行政訴訟法の修改正」は、今年5月1日から「新行政訴訟法」として施行されている。

 これまでの訴訟法では、多くの人民からの訴えを訴訟として受理することが少なく、もっぱら「上訪」(サン・ファン)という陳情者の受付箱や受付窓口で処理することが多かった。処理すると言っても、陳情書を受け取るだけ受け取ってゴミ箱に捨てるか、陳情を聞くだけ聞いて無視する、あるいは追い払うという情況がほとんどだ。最近はインターネットを通して「上訪」ボックスに投稿するケースも見られる。特に法輪功学習者が訴えた場合は、それを受理しないどころか、必ず逮捕され、拷問や生きたままの(第三者への移植のための)臓器摘出などにより死に至る者が多かった。

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