最新記事

イスラム過激派

誤算だらけの中東介入が反欧米テロを生む

戦略もパートナーも間違っている対テロ戦争に勝ち目はない。 安易な介入はかえって事態を悪化させるだけだ

2015年11月27日(金)12時24分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

空爆強化 フランスは原子力空母をシリア沖に向かわせた Jean-Paul Pelissier-REUTERS

 テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)によるパリ同時多発テロは、欧米主要国による中東介入の問題点をあらためて浮き彫りにしている。介入は予期せぬ結果を招き、欧米はそれを封じ込められない。シリア、イラク、リビアの国家破綻はイエメンの内戦とともに、広大な戦場と大量の難民、今後長期にわたり国際安全保障を脅かすイスラム過激派を生み出してきた。欧米もそれに少なからず加担している。

 欧米の中東介入は今に始まったことではない。イラン、エジプト、トルコを除く中東の主要国は、大部分が第一次大戦後の英仏による中東分割の産物だ。01年以降のアメリカ主導のアフガニスタンとイラクへの介入にしても、以前からの欧米による中東の地政学的枠組みづくりの一環にすぎない。

 問題は欧米が一貫してイスラム過激派の「穏健派」を訓練し、資金と武器を与えて「過激派」と戦わせる戦略を取ってきた点だ。暴力的な「聖戦」を仕掛けている連中が穏健派であるはずがない。しかしアメリカはシリアの反政府武装勢力の兵士がISISに寝返っていることを認めながら、新たに1億ドル近い追加支援を約束した。

 フランスもシリア反体制派に資金援助を行い、最近ISISに対する空爆も開始した。だからテロの標的になった。パリ中心部のコンサートホールを襲った犯人は、オランド大統領を「シリアに介入すべきではなかった」と非難していたという。

 独立志向・現実主義の外交の伝統を持つフランスは03年のアメリカ主導のイラク侵攻・占領には反対した。しかし07年に誕生したサルコジ政権はアメリカおよびNATOとの共闘を強め、11年にはリビアのカダフィ政権打倒に積極関与。12年のオランド政権誕生後は介入主義の急先鋒と化し、アフリカ各地で軍事作戦を実施している。

悪循環を加速させる恐れ

 歴史の教訓を無視した介入だ。21世紀の欧米の介入は予期せぬ結果を招き、それが国外に飛び火して新たな介入を招いてきた。

 同様の悪循環は20世紀後半にも起きた。1980年代、米レーガン政権は(サウジアラビアから資金提供を受けて)アフガニスタンでソ連と戦う大勢のイスラム過激派を訓練した。それが国際テロ組織アルカイダを生み、アルカイダによるテロはやがてジョージ・W・ブッシュ政権にアフガニスタン侵攻を促し、イラク侵攻の口実を与えた。

 その後も欧米は過ちを繰り返した。リビアに介入してカダフィ政権を打倒した結果、イスラム過激派が勢力を拡大し、武器や戦闘員が国外へ。フランスがアフリカのマリなどで対テロ軍事作戦に踏み切る事態になった。シリアでも(スンニ派のサウジアラビアなどの支持を受けて)アサド大統領に退陣を迫ったために、内戦が激化。その混乱に乗じてISISがシリアに侵攻、急速に勢力を拡大したため、アメリカなどが昨年シリア空爆を開始。最近フランスも加わった。

 アサドを支持するロシアは独自に空爆を行っているが、やはりテロの標的になっているようだ。シナイ半島でのロシア機墜落はISISの仕業とみられており、シリアとイラクへの軍事関与強化を促し、介入の破壊的な悪循環を加速させる恐れがある。早くもフランスやアメリカなど各国で感情的に政策が策定される兆しが見える。

 欧米は最近の過ちに学び、その教訓を生かして慎重に対応すべきだ。オランドのようにテロを「戦争行為」と呼んで国内のテロ対策強化を図るのは敵の思うつぼ。むしろ故サッチャー元英首相の忠告に従い、テロリストの「生命線であるPRという酸素」の供給を断つべきだ。そもそもイスラム過激派組織や原理主義勢力に資金提供しているアラブ諸国と組んで対テロ戦争が戦えるとは思えない。思わぬ結果を招くリスクが大き過ぎる。

 今からでも悪循環を断つことはできる。だが最近のISISによるテロへの対応を見る限り、その見込みは薄そうだ。

©Project Syndicate

[2015年12月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中