最新記事

イラク

ISISに狙われる図書館

ISISがモスルで10万点の書物を燃やしたと聞いて、バグダッドの国立図書館が対策に乗り出した

2015年8月5日(水)18時01分
ジャック・ムーア

焚書の悪夢 ISISは遺跡を破壊するだけでなく本も燃やす Mohammed Ameen (IRAQ)-REUTERS

 ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の脅威から本や公文書を守るため、イラク・バグダッドの国立図書館は文書のデジタル化を急いでいる。

 国立図書館は、イギリスが1920年に設立。2003年にフセイン政権が崩壊した後の混乱のなかで放火と大規模な略奪に遭い、その後は荒れ果てていた。何万点もの書物の多くが全損もしくは部分的に破損した。1977~2003年の公文書は完全に失われてしまったという。

 それでもまだ、数百年の歴史を持つ貴重な資料が残っている。同図書館の司書や専門家は、それらをデジタル化して保存しようとしていると、AP通信は報じた(管轄当局からのコメントは得られなかった)。

 図書館の本をデジタル化する計画は、2月にISISがイラク第2の都市モスルで図書館を襲撃し、およそ10万点の書物や文書を燃やしたという報道を機に始まった。ISISは爆破物を使って図書館を破壊したとされているが、今のモスルはISIS支配下で外界から遮断されており、確かなことはわからない。

 同様の被害に遭ったイラク国立博物館では、古いものでは1万年も前の遺物を所蔵していた。推定1万5000点の収蔵品が盗まれ、そのうち取り戻せたのは3分の1に過ぎない。

 モスルの図書館破壊を、ユネスコ(国連教育科学文化機関)のイリナ・ボコバ事務局長は強い口調で非難した。「この破壊行為で、イラクのIS支配地域で続く『文化浄化』は新たな段階に入った。歴史的遺産の組織的破壊と、イラクの人々にとって重要な文化的多様性を消し去ろうという迫害行為だ」

 バグダッドでは何度も自爆テロが起こっているが、ISISの侵攻はまだ受けていない。だが5月には、アンバル州の首都ラマディを制圧。その勢力はバグダッドまでわずか105キロの位置に迫っており、書物への脅威も日に日に増している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラの中国製EV販売、11月は前年比9.9%増 

ワールド

イスラエル首相「シリアと合意可能」、緩衝地帯設置に

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中