最新記事

ヨーロッパ

EUの次期トップ、ユンケルを待つ欧州の矛盾

緊縮財政策の見直し、対ロシア政策からイギリスとの仲直りまで課題はいっぱい

2014年7月24日(木)18時17分
マット・スキヤベンザ

2つの欧州の狭間で 困難な舵取りを強いられるユンケル Vincent Kessler-Reuters

 EUの新たなトップが決まった。欧州議会は先週、ユンケル前ルクセンブルク首相(59)を欧州委員会の次期委員長として正式承認した。

 この10年間で、EUには新たに12カ国が加盟。バローゾ現委員長の下で欧州大陸で最も重要な、拘束力のある文書といえる「リスボン条約」も可決された。ユンケルはバローゾの後任として11月1日に委員長に就任し、5年間の任期をスタートさせる。

 欧州委員会はEUの行政執行機関だが、委員長には加盟28カ国の政府首脳のような強い政治的権限はない。それでもユンケル委員長の誕生に大きな注目が集まった背景には、EUが抱える2つの問題がある。

 まずは、南欧諸国の緊縮財政策やロシアへの対応をめぐって、欧州が「内輪もめ」の状態にあること。次いで、5月下旬に行われた欧州議会選挙で極右政党が躍進して、EU懐疑主義が高まっていることだ。懐疑派の中心であるイギリスのキャメロン首相とハンガリーのオルバン首相は、統合推進派であるユンケルの選出に反対した。

 ユンケルと欧州委員会はまず、委員会の構成と方向性をめぐる差し迫った数々の問題に取り組まなければならない。

 その1つが女性の登用拡大だ。EU加盟国は欧州委員を1人ずつ選出するが、これまでのところ女性候補は2人だけ。欧州議会が好ましいとする8〜9人には遠く及ばず、ユンケルはもっと多くの女性を委員に任命するよう各国政府を促している。

 アシュトンEU外相(外務・安全保障上級代表)の後任人事も注目だ(決定は来月下旬に先送りされている)。イタリアのレンツィ首相は、やや外交経験の浅い同国のモゲリーニ外相を推している。経験豊富なポーランドのシコルスキ外相もこのポストに関心を抱いているようだ。

 ヨーロッパが直面する外交問題の中で、加盟各国の意見が最も分かれるのがロシアをめぐる問題だろう。3月にウクライナからクリミア半島を奪取して欧州を激怒させたロシアだが、EUにとっては石油・天然ガスの重要な供給国でもある。レンツィとモゲリーニはより融和的な対ロシア政策を、シコルスキはより強硬策を取る可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中